ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Wooden Fish(仮題『木の さかな』)

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【基本情報】
書名:Wooden Fish(仮題『木の さかな』)
作者:ティム・ティペネ (Tim Tipene)文/ジェニファー・クーパー (Jennifer Cooper)
出版社:Reed Publishing (NZ) Ltd  発行年:1999年
ISBN:9781869488260  サイズ:21.5×23cm(ソフトカバー)  ページ数:24
対象年齢:3歳ぐらいから
*試訳(全訳)あります

 【あらすじ】※結末にふれています。
 ハンセニは、南太平洋の島に住む男の子。家族や村人たちと、なかよく幸せに暮らしています。食べものは、お父さんや仲間の漁師たちがとってくる魚と、お母さんたちが育てる野菜です。お父さんもお母さんも、「食べものは必要なだけしかとってはいけない」と、子どもたちに教えます。おじさんの一人は彫刻師です。彫刻に使う木の枝は、地面に落ちているものしか使ってはいけないと教えます。ハンセニは、おじさんの手伝いをするうち、木で物を彫るのが上手になりました。
 あるとき、魚がとれない日が何日もつづきました。村人たちは、飢えの不安にさらされ、笑顔を失っていきます。ハンセニは考えました。お父さんを元気づけるにはどうすればいいだろう? すると、雨と風の音にまぎれて、「木のさかな、木のさかな」という不思議な声が聞こえてきました。ハンセニは、2日がかりで木の魚を彫り、お父さんにプレゼントしました。お父さんはとても喜んでくれましたが、食べものがないことに変わりはないのだそうです。それを聞いたハンセニは腹を立て、木の魚を地面にたたきつけました。すると、不思議なことが起こりました。
 地面から木の魚を持ち上げると、そこからほんものの生きた魚があらわれたのです。木の魚を投げるたびに生きた魚があらわれ、お父さんも大喜び。木の魚を使って、村人みんなにいきわたるだけ魚をとりました。その晩、村人たちは、久しぶりに魚料理を味わいました。
 次の日、お父さんたちが海に出ると、魚がたくさんとれました。村人たちに笑顔が戻ります。お父さんは、ハンセニが彫った木の魚を、布にくるんで大切にしまいこみました。またいつか、使うことがあるかもしれませんからね。

【感想・評価】
 ティム・ティペネのデビュー作。ストーリーも文体も初々しく、「海や大地の恵みは、必要なだけしかとってはいけない」というメッセージがストレートに伝わってくる。
 木で作った魚が魔法をもたらすという展開は、昔話ふうで味わいがあるばかりでなく、彫刻が得意なポリネシア民族らしい点も魅力だ。幼いハンセニの一途な思いとあいまって、素朴ながらすてきなお話だと思う。
 不漁を心配するハンセニを諭す父親の言葉には、はっとさせられた。
「われわれのくらしには、いいときもあれば、あまりよくないときも あるものなんだ」

 絵を描いたのは、サモア在住経験のあるジェニファー・クーパー。南太平洋の島の風景をみごとに描き出している。海、ヤシの木、壁のないわらぶき屋根の家、おおぜいで一緒にとる食事風景など、現代文明とはあまり縁のない村の、素朴で温かい雰囲気を伝える絵が、目にやさしい。南の島らしい民族衣装は色とりどりで美しく、ハンセニや人々の笑顔も生き生きとしている。文には出てこない犬やネコもところどころに登場し、なごませてくれる。ハンセニに寄りそう大きなゴールデンレトリバーのやさしい目は、幼い読者に安心感を与えてくれるのではないだろうか。

 エコのメッセージ、父親を思うハンセニの一途な気持ち、そして南太平洋の人々の暮らしぶりを伝えてくれるいい絵本だと思う。

【作者紹介】
ティム・ティペネ(文)
こちらの作者紹介をご覧ください。

ジェニファー(ジェニー)・クーパー(絵)
 1961年生まれ。クライストチャーチの専門学校でグラフィックデザインを学び、1990年代前半からフリーのイラストレーターとして活躍。多くの絵本や読み物、学習教材等に挿絵を描いている。結婚後3年間住んだサモアの風景や暮らしに強く影響を受け、南太平洋の島々や、マオリの子どもたちを描くことに喜びを感じている。
 第1次大戦を題材にした絵本 Jim's Letter(Glyn Harper 文)が2015年NZ児童書及びヤングアダルト小説賞の絵本賞を受賞。国内の児童文学賞で候補作に選ばれること多数。