ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Nobody's Dog(仮題『わすれられない犬』)

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【基本情報】
書名:Nobody's Dog(仮題『わすれられない犬』)
    *2006年ニュージーランド・ポスト児童図書賞子どもたちが選んだ本賞受賞作品
    *2006年ラッセル・クラーク賞候補作品
作者:ジェニファー・ベック (Jennifer Beck) 文
   リンディー・フィシャー (Lindy Fisher) 絵
出版元:Scholastic New Zealand
発行年:2005年
ページ数:32ページ
サイズ:27 x 22 cm
ISBN:978-1869436681(ハードカバー)
対象年齢:5歳ぐらいから
*試訳(全訳)あります

【あらすじ】※結末にふれています
 おじいちゃんの家に遊びにきた男の子サムが、壁にかかった犬の絵をうっとりながめていると、絵の作者であるおじいちゃんが、その犬との思い出を話してくれました。

   子どものころ、父親の農場に迷い込んだゴールデンレトリバーと仲良くな
  ったが、農業に役に立つ犬ではないので、飼うことを許されなかった。父親
  がトラックで連れ出し、処分した。
   寂しい暮らしの中で、絵を描くことが好きになり、ひとりでスケッチに出
  かけるようになった。冬のある日、山の中で足をすべらせ、動けなくなった
  とき、その犬が突然現れ、一晩中そばにいて、寒さから守ってくれた。朝に
  なって救助隊の声が聞こえると、犬は姿を消し、それから二度と現れなかっ
  た。でも、あの犬の姿ははっきりとおぼえている。大人になって農場で働く
  ようになってから、あの犬の絵を描いたんだよ。

 話が終わると、おじいちゃんは、犬の絵をサムにプレゼントしてくれました。あの犬との思い出は、サムとおじいちゃんふたりのものになったのです。

【感想・評価】
 物悲しくも、温かさと力強さを感じさせるストーリー。実話をもとに、祖父が孫に語る思い出話の形をとって、農家の暮らしと、少年と犬のふれあいをありのままに伝えている。子どもに媚びることなく、かといって説教じみてもいない語りだ。1度読んだだけではピンとこないかもしれないが、じわじわと伝わる独特の味わいがある。
 ゴールデンレトリバーは、猟犬や盲導犬として優秀で、牧羊犬には不向きとのこと(ニュージーランドの農場で活躍するのは、ボーダーコリーやハンタウェイなど)。人なつっこく、やさしい性質であることも特徴だ。農家では働く犬しか飼えないという厳しい現実があったことを、今の日本の子どもたちに伝える価値は大きい。ペットの殺処分が問題になっている昨今、人と犬との関わりを描いた本書は貴重だと思う。
 水彩画のイラストも秀逸だ。絵画を鑑賞するように絵だけを見て楽しむのもいい。子どもにも大人にも、長く愛される作品ではないだろうか。

【作者紹介】
ジェニファー・ベック(文)
 1939年オークランド生まれ。教員を経て、1980年代より子どもの本の作家として活躍し続けている。ニュージーランド・ポスト児童図書賞では、1997年に絵本 "The Bantam and the Soldier" で年間最優秀図書賞を受賞。候補作品に選ばれた絵本に、"The Christmas Caravan"、"A Present from the Past"、"Remember That November"など。1988年発表の "The Choosing Day" は邦訳がある(『なんでもできる日』ロビン・ベルトン絵/たかはしえいこ訳/すぐ書房)。

リンディー・フィシャー(絵)
 1955年生まれ。オークランド大学で美術を学び、卒業後はグラフィックデザイナーとして、切手のデザインや広告業界で活躍。その後、絵本のイラストレーターに。代表作に、ジェニファー・ベックとコンビを組んだ "A Present from the Past"(2006年)、"Stefania's Dancing Slippers"(2007年)、"Remember That November"(2012年)など。