ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Charlie Tangaroa and the Creature from the Sea (仮題『チャーリー・タンガロアと海から来た少女』)

Charlie Tangaroa and the Creature from the Seahuia.co.nz

【基本情報】
書名Charlie Tangaroa and the Creature from the Sea
  『チャーリー・タンガロアと海から来た少女』(仮題)

*2021年ニュージーランド児童書YA小説賞〈マーガレット・マーヒー年間最優秀図書賞〉受賞作品
*2022年IBBYオナーリスト選出作品
2023年IBBYバリアフリー児童図書選出作品

著者:T・K・ロックスバラ(T K Roxborogh)
出版社:Huia Publishers  出版年:2020年
頁数:224
ISBN:978-1775503972
対象年齢:小学校高学年から

【概要】
 海岸でゴミ拾いをしていたチャーリーと弟のロビーは、手足に水かきのついた不思議な少女が打ち上げられているのを見つけた。少女の話では、陸の民による海洋汚染のせいで、マーオリの神々が争いを始めたという。その争いは、地震と嵐という形でチャーリーたちを襲う。この事態を解決できるのはチャーリーだけだと少女は信じている。その根拠は、チャーリーに脚が1本しかないから……。神々を仲直りさせる役割を担って、チャーリーの冒険が始まる。
 マーオリ神話をモチーフにしたファンタジーシリーズの第1巻。

※続編Charlie Tangaroa and the God of the War(仮題『チャーリー・タンガロアと戦いの神』)の刊行が予定されている。

【物語の舞台】
ニュージーランド北島東海岸のトラガ湾

【おもな登場人物】
チャーリー◆13歳の少年。左脚が義足。
ロビー◆チャーリーの異父弟。11歳。腕白で心配性。
母さん(メレ)◆町で雑貨店(よろず屋)を経営している。
父さん(パケタイ)◆チャーリーが生まれる前に海で死んだ。
じいちゃん◆同居している祖父(母の父)。農場経営者。マーオリの神々を信じ、伝統を重んじている。端から見ると変わり者。
マイク◆ロビーの父親。メレとは離婚している。軍の隊員。
ポーヌイア◆海の民ポナトゥリの少女。
ジェニー◆アメリカ人の少女。両親とともにニュージーランドを訪問中。

【マーオリの神々】
タンガロア◆海の神
タネ(タネマフタ)◆陸の神
ターフィリマテア◆嵐の神
ルーアーモコ◆地震の神
※これらの神々は、同じ両親(父なる空ランギヌイと母なる大地パパトゥアヌク)を持つ兄弟である。

【あらすじ】

 語り手で主人公のチャーリーは13歳。母、祖父、父親の違う弟と4人で、ニュージーランド北島東部のトラガ湾沿岸で暮らす。生まれた時から左脚がないため、義足をつけている。

 夏休みの1日目、海岸のゴミ拾いをしていたチャーリーと弟のロビーは、不思議な少女が打ち上げられているのを見つけた。少女の爪先には突起があり、手足には水かきがついている。青白い体は冷たいが脈はあったので、じいちゃんに迎えにきてもらい、家に連れていく。マーオリの伝統的価値観に従って生きているじいちゃんには、この少女が「ポナトゥリ」であるとわかった。マーオリ神話に登場する海の民だ。意識を取り戻した少女を家のプールに入れ、魚を食べさせた。

 次の日の夜遅く、ポナトゥリの少女に名前を呼ばれて、チャーリーは目を覚ました。プールに行ってみると、少女に助けを求められるが、何をどう助ければいいのかはわからない。わかったのは、少女の名前がポーヌイアであることと、両親が森にいることぐらいだ。

 ベッドに戻るも混乱して眠れないチャーリー。そこへ地鳴りのような音がしたか思うと、激しい揺れに襲われた。マグニチュード7.9の大地震だ。家具が倒れ、物が散乱し、停電になる。そして津波警報発令。この小高い農場には避難者が集まってくるので、古い洗濯小屋へポーヌイアを移動させる。粗末な浴槽に入れられたポーヌイアにチャーリーが付き添い、2人はまた語り合った。チャーリーが1本脚なのは混血だからだとポーヌイアはいう。海の神と陸の神、両方の子孫なのだ、と。

 翌朝、経営している雑貨店に泊まっていた母さんが、車で帰宅中に負傷したと知らせが届く。地震による道路の亀裂のせいだ。家に運ばれてきた母さんはとても具合が悪そうだが、陸路は寸断されてしまったので、救助のヘリコプターが来るのを待つしかない。

 物が散乱した家の中で毛布やタオルをさがしていたとき、古い写真が出てきた。チャーリーが生まれる前に死んだ父さんが写っている。その爪先には、ポーヌイアと同じ突起がついていた。

 農場にやってきた避難者の中に、アメリカ人の少女ジェニーもいた。神話研究者の母と開発業者の父とともに、この近くに滞在している子だ。どさくさに紛れて洗濯小屋に入り込んでいる。

 ポーヌイアが、チャーリーたちに改めて事情を伝えた。:陸の神のもとにいる民(=人間)が海を汚染し、破壊し続けるせいで、海の者(ポナトゥリ、魚類、哺乳類等すべて含む)たちが次々と死んでいる。ポナトゥリの中には、海を離れて陸の神のもとに避難している者もいる。ポーヌイアの両親もそうだ。海の神タンガロアは陸の神タネに激怒し、攻撃を始めた。嵐の神と地震の神もタンガロアの側についた。

 実際、外では雷鳴が響き、天気予報に反して激しい雨が降り出した。嵐の神の仕業だ。余震も繰り返し起こっている。神々の戦いをやめさせることができるのは、陸と海の混血であるチャーリーだけだ。ポーヌイアは、そう主張する。

 チャーリーは困惑するが、じいちゃんはポーヌイアの話に納得したようで、神々に会いにいこうとチャーリーを連れだした。海を見下ろす崖の上に立ち、2人して、マーオリの古い言葉を唱えてタンガロアとタネに語りかけるが、声は嵐にかき消される。いったんあきらめて帰宅すると、ポーヌイアが姿を消していた。

 じいちゃんは避難所での役割があるためしばらく離れられないが、チャーリーには、タネと話をするために今すぐ森へ行ってみろという。一刻も早く嵐を止めないとヘリコプターが飛ばず、母さんの命が危ないからだ。ひとりで神と話をする自信など、チャーリーには全くないが、じいちゃんは、「お前にはその力がある」と断言した。

 チャーリーは、同行を申し出てくれたジェニーと一緒に、森へと出発する。豪雨の中、落雷で落ちた枝が義足に乗っかり、動けなくなったチャーリー。やむを得ず義足を外し、棒きれを杖にしてジェニーに助けられながら進む。目指していた滝で、先祖の霊と話をすることはできたが、目的は達成できないまま、へとへとになって帰宅。

 海の神タンガロアが、陸の神タネに復讐していることは間違いない。先月、近くの浜に打ち上げられた十数頭のクジラたちの死体から、プラスチックなどの人工物が大量に発見されたのをチャーリーも見た。チャーリー自身も海を守る活動に参加しているし、環境保護活動は盛んに行われているが、それでは全然足りないのだ。海は破壊され続けている。ジェニーは父親に、港の建設を中止してと頼むが、聞いてもらえない。父曰く、先住民の承諾を得ているし、自然保護団体の基準もクリアした上での建設なのだ。

 ポーヌイアの話、じいちゃんの知識、そしてマーオリ神話のエピソードから判断すると、海と陸が出会う場所は、ビーチタソック草(カヤツリグサ科の草)が生える砂浜だ。そこが戦いの地に違いない。トラガ湾の町の中心に近いその砂浜に行けば、神々に会えるはず。腹ごしらえのあと、チャーリー、じいちゃん、ロビー、ジェニーの4人は、雷雨の中、馬でそこを目指す。町に到着して馬を下り、歩き始めたところで、また大きな地震に見舞われる。そして、じいちゃんが地面に飲み込まれてしまう。〈以下略〉

 

【著者紹介】
T・K(タニア・ケリー)・ロックスバラ:1965年クライストチャーチ生まれ。高校で英語と演劇を教えながら作家としても活躍。フィクション、ノンフィクション、戯曲、文法書など幅広いジャンルの作品を発表している。代表作に、YA小説Banquo's Son、歴史を扱う読み物 My New Zealand Story シリーズの Bastion Point: 507 days on Takaparawha などがある。2015年、オタゴ大学でマーオリ学の学位を取得。

 版元紹介
フイア出版(Huia Publishers):ウェリントンに拠点を置く独立系の出版社。1991年設立。先住民マーオリの作家の著書や、マーオリを題材にした作品、語学教材などを出版。英語で書かれた作品のマーオリ語版も数多く手がける。新人作家の発掘にも積極的。

【関連図書】
マーオリを題材にしたフィクション作品
『クジラの島の少女』(ウィティ・イヒマエラ作/澤田真一、サワダ・ハンナ・ジョイ訳/角川書店/2003年)
『ハンター』(ジョイ・カウリー作/大作道子訳/偕成社/2010年)

神話を題材にしたファンタジー作品
「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」シリーズ(リック・リオーダン作/金原瑞人・小林みき訳/ほるぷ出版/2006年-)