ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★RIA the Reckless Wrybill(『せかいでいちわの すごいチドリ』仮題)

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【基本情報】
書名:RIA the Reckless Wrybill(『せかいでいちわの すごいチドリ』仮題)
  *2011年 Storylines優良図書

作者:ジェーン・バクストン(Jane Buxton)文
   ジェニー・クーパー(Jenny Cooper)絵
出版元:Puffin Books
発行年:2010年
ページ数:36ページ(本文29ページ)
寸法:27 x 22 cm
ISBN:978-0143504504(ハードカバー)/978-0143504573(ペーパーバック)
対象年齢:5歳ぐらいから
*試訳(全訳)あります

【概要】
 川辺でくらすハシマガリチドリの家族。ふたごのヒナのうち、女の子のリアは、こわいものしらずのおてんば娘です。でも、お父さんとお母さんのいうことをきかずにいたら、犬にさらわれてしまいました……!

 
【あらすじ】
 ハシマガリチドリの夫婦のあいだに生まれた2わのヒナ。オスのルアはごくふつうだけど、メスのリアはちょっとちがいます。ハシマガリチドリのくちばしは、右にまがっているものなのに、リアのばあいは、左にまがっているのです。それに、たいへんなおてんばで、こわいものしらず。とうさんとかあさんが身のまもりかたを教えても、聞いていません。「あたいは、すごいチドリのリアさまだ!」なんて、いばっています。
 上空に、天敵のタカがあらわれました。こんなときは、ひたすら静かにじっとしているものです。そうすれば、石にまぎれて見つかりません。ところがリアは、タカに向かって悪態をつきました! 運よくタカにはつかまらなかったものの、犬にさらわれ、ふるえあがります。ついたところは、犬の飼い主の男の子の家でした。ここでもリアは幸運でした。男の子のおじいちゃんが、ハシマガリチドリのことを知っていて、もといた場所にかえそうといってくれたのです。
 車ではこばれ、もといた場所にはなされたリアを見て、とうさん、かあさん、ルアは大よろこび。でもリアは、あいかわらずいばっていて、ちっとも反省してないみたい……。
 2日後のことです。とうさんチドリが、「天敵だ!」とさけびました。さあ、リアはどうしたでしょう……? 両親の教えをまもって、じっとしていました。ぴくりともせずにね。〈以下略〉

【感想・評価】※結末にふれています
『さかなをたべないペンギンぼうや』(仮題)で、やんちゃなペンギンの男の子を描いたジェーン・バクストンが、今度はハシマガリチドリのおてんば娘の話を書いたと知り、迷わず購入した。
 森にすむペンギンや、飛べないオウムのカカポ、国鳥のキーウィなど、個性派ぞろいのニュージーランドの鳥の中で、ハシマガリチドリは、見た目も地味だし知名度も低い。けれど、そのくちばしの形は世界でひとつと、実に独特な鳥なのだ。そんなハシマガリチドリを題材に、普通ではあり得ない左曲がりのくちばしを持ったヒナを主人公にすえるという発想がおもしろい。つむじ曲がりならぬ左曲がりのヒナが、やんちゃで頑固でこわいもの知らずという設定も魅力的だ。
 構成もしっかりしていて、はらはらドキドキしたあと、ハッピーエンドで気持ちよく本を閉じることができる。こわい目に遭っても懲りないように見えたリアが、実は懲りていて、最後に素直な面を見せるという結末は、ほほえましい。
 また、ストーリーがハシマガリチドリの生態に忠実である点も、魅力的だ。曲がったくちばしをはじめ、生まれたてのヒナが自分でえさをとること、天敵の種類、カムフラージュのしかた、親鳥の擬傷、人間との関わりなど、さまざまな事実が、みごとに生かされている。男の子とおじいちゃんの会話からも、ハシマガリチドリのことがよくわかる。
 絵は、やさしいタッチの水彩画だ。風景や親鳥はほんものに忠実に描かれ、ハシマガリチドリがどんな鳥なのかをしっかり伝えている。ヒナはデフォルメされて、かわいらしい。
 作家、画家ともに、日本では無名だが、世界のペンギングループからハードカバーで出版されたことにうなずける魅力を持った絵本。ぜひとも邦訳出版されてほしい。

【ハシマガリチドリ (wrybill) について】
 チドリ目チドリ科ハシマガリチドリ属のこの鳥は、ニュージーランド固有の絶滅危惧種。くちばしが右寄りにカーブしているのが最大の特徴。左右非対称のくちばしを持つのは、世界の鳥の中でも、ハシマガリチドリだけである。
 ハシマガリチドリのつがいは、南島カンタベリー地方の洲の多い川で、春に産卵、子育てをする。小石の間に作った巣に、卵は通常2つ。卵も体も、川の石と同じ灰色で、カムフラージュに効果を発揮する。ヒナは孵化するとすぐに巣から出て、親鳥に見守られながら、自分でえさをとる。ヒナが襲われそうになると、親鳥は擬傷をする。秋から冬にかけては、北島の干潟に渡って、群れで生活する。

【作者紹介】
ジェーン・バクストン(文)
 1947年、ニュージーランド北島のオタキに生まれる。教職の傍らに執筆活動に取り組み、学習教材を中心に、子ども向けの物語、脚本、詩など、200作品以上を発表。2002年より作家専業になる。2006年出版の "The Little Penguin Who Wouldn't Eat His Dinner"(仮題『さかなをたべないペンギンぼうや』)は、やんちゃなキガシラペンギンのヒナのおはなし。"RIA the Reckless Wrybill" 同様、ニュージーランド固有の鳥をモチーフにした親しみやすい絵本作品だ。ジェニー・クーパーとコンビを組んだ絵本には、幼いラマを主人公にした "The Littlest Llama" がある。

ジェニー・クーパー(絵)
 1961年生まれ。クライストチャーチの専門学校でグラフィックデザインを学び、1990年代前半からフリーのイラストレーターとして活躍。絵本や読み物、学習教材等に挿絵を描いている。子ども向け読み物 "The Mad Tadpole Adventure"(Melanie Drewery文)は、2008年のニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト小説賞の児童読み物部門候補作。第1次世界大戦をモチーフにした絵本 "Jim's Letter" (Glyn Harper 文)は、2015年のニュージーランド児童書及びヤングアダルト小説賞絵本部門受賞作と、画家を対象にした絵本の賞ラッセル・クラーク賞候補作に選ばれた。