ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Myths and Legends of Aotearoa(仮題『アオテアロアの神話と伝説』)

【基本情報】
書名:Myths and Legends of Aotearoa(仮題『アオテアロアの神話と伝説』)
                ※「アオテアロア」はマーオリ語でニュージーランドのこと

再話:アニー・レイ・テ・アケ・アケ (Annie Rae Te Ake Ake)
絵:ニュージーランドの中高生アーチストたち
出版社:Scholastic NZ
出版年:1999年 ISBN: 9781869433888
(2018年に新装版刊行 ISBN: 9781775435235)
ページ数:64   読者対象:小学生以上
2000年ニュージーランド・ポスト児童図書賞ノンフィクション部門候補作品/2000年ストーリーラインズ優良図書


【概要】
 ニュージーランド先住民マーオリ族の神話や伝説15編が収められた絵本。イラストは、ニュージーランド各地の高校生によるもの。

【タイトル一覧】
1.天地創造の伝説
2.ウエヌクと霧の乙女
3.マウイの巨大な魚
4.ロナと月 
5.ヒネモアとツタネカイの伝説
6.ラタとトタラの木
7.マウアオの伝説
8.サンゴ礁のパニア
9.ワイカレモアナ湖の伝説
10.マウイと火の指
11.ハツパツと鳥女
12.ピロンギア山の孤独な妖精
13.マウイと太陽
14.おばあさんと忠犬
15.山たちの戦い

【あらすじ】

1.天地創造の伝説
 むかしむかし、この世に光はなかった。暗闇の中、父なる大空ランギヌイと母なる大地パパトゥアヌクが、しっかりと抱き合っていた。ふたりの間に生まれた息子たちは、狭い暗闇に閉じ込められていることに嫌気がさして、両親を引き離そうと決めた。とてつもない力を要する仕事だったが、息子のひとりでのちに森の神となるタネマフタが、やってのけた。タネマフタに押されて、ランギヌイは上へ上へと離れていった。こうして、光あふれる広い世界が誕生した。

 解説ニュージーランド人なら誰もが知っている、ランギとパパの創世神話です。息子たちもそれぞれ神になりました。風の神タウフィリマテア、海の神タンガロア、戦いの神トゥマタウエンガ、森の神タネマフタなどです。タネマフタは特に有名で、屋久島の縄文杉と姉妹木関係を結んだ巨木(北島北部ワイポウア森林保護区にあるカウリの木)の名前にもなっています。

2.ウエヌクと霧の乙女
 若者ウエヌクは、美しい霧の精ヒネプコヘランギと恋に落ち、結婚した。しかし一緒に過ごすのは夜だけで、朝になるとヒネプコヘランギは空へと帰っていってしまう。ある日ウエヌクは、家のまわりをござで覆い、朝日がさしこまないようにした。日が高くなってから目をさましたヒネプコヘランギは、取り乱し、そのまま空へ舞いあがって2度と戻ってこなかった。その後、ウエヌクを気の毒に思った天の父ランギヌイは、ウエヌクを虹に変えた。

3.マウイの巨大な魚
 末っ子のマウイは、兄さんたちに仲間はずれにされていた。兄さんたちは、不思議な力を持つマウイを恐れていたのだ。ある晩、兄さんたちが釣りにいくと知ったマウイは、魔法の釣り針を用意して、カヌーの中に隠れた。翌朝早く、兄さんたちはカヌーを出した。沖まで出たころ、マウイは姿を現し、魔法の釣り針をつけた釣り糸を海にたらした。すると、途方もなく大きな魚がかかった。恐れをなして震えだす兄さんたちを尻目に、魔法の釣り針と呪文の力で、マウイは巨大な魚を釣りあげた。その巨大な魚は島になり、今では「ニュージーランドの北島」と呼ばれている。

解説:マウイは、ポリネシア民族の間で伝わる半神半人の英雄です。未熟児として生まれ、掟に従って海に流されましたが、年老いた海の女神に拾われ、魔術などを仕込まれたあと、家族のもとに戻ったと言われています。たいへんないたずら者ですが、島を釣り上げる、火の起こし方を発見する、太陽の動きを遅くして昼間の時間を長くするなど、多くの偉業を成し遂げたとされています。本書にはマウイの物語が3編収められています。

4. ロナと月
 ロナは、夫と子どもと幸せに暮らしていた。ある晩、ロナは、ひょうたんに飲み水が入っていないことに腹を立てた夫に怒鳴りつけられ、月明かりの中、水をくみに小川に向かった。途中、月が雲に隠れてあたりが真っ暗になったせいで、木の根につまずいて転倒。向かっ腹を立てたロナは、再び顔を出した月に向かってひどい悪態をついた。すると、それを聞きつけた月がおりてきて、ロナを空へとさらっていった。
 翌朝、夫と子どもたちがロナをさがしに出かけた。小川に近づくと、空の上から、「わたしはここよ!」と声がした。ロナは月の中にいた。
 ロナは今でも月の中にいる。さらわれまいとしてつかんだ木の枝を、片手に握ったまま。

解説:日本では、月の中でウサギが餅をついているといわれていますが、ニュージーランドでは、月の中にいるのは、折れた木の枝をつかんだ女性です。

5. ヒネモアとツタネカイの伝説
 ヒネモアは、ロトルア湖のほとりに住むマーオリの首長の娘。年頃になると、湖に浮かぶ島の若き首長ツタネカイと恋に落ちた。しかしヒネモアの父は、別の男を結婚相手に選んでいた。ヒネモアは、夜中に家を抜け出し、カヌーを漕いでツタネカイのいる島に渡ろうした。ところが、カヌーはすべて、高台に引き上げられていた。途方に暮れるヒネモアの耳に、ツタネカイが奏でる笛の音が聞こえてきた。ヒネモアは、島へと泳ぎだした。水中の怪物タニファをかわし、冷たい湖を泳ぎ切ってようやくたどり着くと、すでにツタネカイはあきらめて帰ってしまっていた。ヒネモアが、そばにあった温泉で体を温めていると、ツタネカイの召使いが湖の水をくみにやってきた。暗闇の中、ヒネモアは、召使いのひょうたんをつかんで投げつけた。召使いは恐れをなして逃げ帰った。同じことがもう1度繰り返されたあと、ツタネカイ本人がやってきた。ヒネモアは姿を現し、2人は結ばれた。翌日、愛する娘をさがして島へやってきた父は、ヒネモアの無事を喜び、ツタネカイとの結婚を祝福した。

解説:北島にあるロトルア湖と、その真ん中に浮かぶモコイア島を舞台とするラブストーリー。モコイア島には、ヒネモアが体を温めた温泉「ヒネモア・プール」があり、足湯を楽しむことができます。水の中に棲む怪物タニファは、マーオリ独特の存在として多くの物語に登場します。


6.ラタとトタラの木
 若者ラタは、魚をたくさん取るために大きなカヌーを造ろうと、森の巨木を切り倒した。ところが、翌日になると巨木は元通りそびえていた。再び切り倒すが、翌日にはまたそびえていた。その夜、ラタが見はっていると、鳥や虫、それに夜の妖精パツパイアレヘたちが、倒された巨木を元に戻す作業をしていた。抗議するラタに、パツパイアレヘたちが教えた。「無断で木を切ってはならない。森の神タネマフタに許可を得よ」。
 反省したラタは、タネマフタに祈りをささげた上で再び巨木を切り倒し、パツパイアレヘたちの協力も得て、立派なカヌーを完成させた。

解説:パツパイアレヘは、マーオリの世界の妖精です。山や森に住み、夜にだけ活動すると言われています。大勢で登場することが多いです。体の大きさについては、諸説あります。


7.マウアオの伝説
 美しい女山に失恋した名もない男山が、海に身を投げようと、夜の妖精パツパイアレヘに引っ張られて移動する。ところが、海に着く前に夜明けが訪れ、パツパイアレヘたちは退散。名なし山は、砂州に取り残された。別れる前に、パツパイアレヘは、名なし山に「マウアオ」という名前を授けた。その後マウアオは、さらに立派な「マウント・マウンガヌイ」という名前で呼ばれるようになった。

解説:この山は、北島北部のタウランガという町の、半島の先端にそびえており、マウアオまたはマウンガヌイ山と呼ばれています。標高230メートル。地元のマーオリにとって神聖な場所です。


8.サンゴ礁のパニア
 海の民の娘パニアは、人間の若者カレタキと恋をし、ふるさとを捨てて陸地で結婚した。カレタキが留守のある夜、姉さんたちに呼ばれたパニアは、少しの間ならいいだろうと、姉さんたちと過ごし、両親にも会いにいった。父親は陸の男との結婚を許さず、パニアを檻に閉じ込めた。パニアとカレタキは、2度と会えなかった。


9.ワイカレモアナ湖の伝説
 マフという名の恐ろしいタニファ(怪物)は、いいつけを聞かなかった自分の子どもたちを岩に変えた。1人だけ残った末っ子は、人間の子であった。その子は、水くみのいいつけを断ったことでマフの怒りを買い、泉で襲われた。それを見た森の神タネマフタは、かわいそうな末っ子をタニファに変えた。おかげで力を得た末っ子はマフから逃れたが、そのまま巨大化し、動けなくなった。そしていつしか、ワイカレモアナ湖の岩となった。


10.マウイと火の指
 好奇心旺盛なマウイは、火の始まりを知りたくなり、村じゅうの火をすっかり消してしまった。母親に叱責され、地下の世界から「火の指」をもらってくるよう言いつけられると、マウイは喜んで出かけていった。地下の世界には、マフイカという老婆がいる。その10本の指から炎が出て、あたりを照らしていた。マウイは火の指を求め、1本もらった。しかし、帰る途中で小川に落として火が消えてしまったので、もう1本もらいにいった。マウイは、シュッと音を立てて火が消えることがおもしろくて、また小川に火を落とした。同じことを何度も繰り返し、ついにマフイカの火の指は、あと1本になった。
 マウイが最後の指を求めると、マフイカは怒り狂った。逃げ出すマウイに、マフイカは、最後の指を力いっぱい投げつけた。火は木々に燃え移り、森は火の海になった。マウイは鷹に姿を変えて空を飛び、風の神に助けを求めた。すると嵐が吹き、激しい雨が降りだした。マフイカは、5種類の木の中に火を閉じ込め、去っていった。その後マウイは、これらの木の枝を折り、火を起こした。火は今でもこれらの木の中にある。


11.ハツパツと鳥女
 末っ子のハツパツは、狩りに行った先で兄さんたちに殺されるが、両親が送った先祖の霊によって蘇る。しかし森で巨大な鳥女に捕まり、えさとして閉じ込められる。そこから脱走し、最後は命からがら家に戻るという大冒険。鳥女は、煮えたぎる泥の温泉で命を落とす。兄さんたちは、死から蘇ったパツパツに恐れをなして、ねたんだりいじめたりするのをやめた。


12.ピロンギア山の孤独な妖精
 美しい女性テ・ファイツが、孤独な妖精にさらわれた。悲しむ夫と次男のもとに、死んだ長男の霊が現れ、テ・ファイツを取り戻す方法を教える。夫と次男が、教えの通りに旅に出て、たき火でモリバトを焼くと、そのにおいがテ・ファイツのもとに届き、家族は再会を果たした。再び長男の霊が現れ、復讐をたくらむ妖精の撃退方法を教える。おかげで妖精に襲われることもなく、家族は幸せに暮らした。


13.マウイと太陽
 むかし、太陽は今よりずっと速く動いており、1日が短すぎて人々は困っていた。そこでマウイは、太陽に直談判しようと決めた。たくましい男たちを集め、丈夫なロープを携えて、東へ向かって出発。何日も旅をして、太陽が飛び出す巨大な穴にたどりつくと、持ってきたロープで罠をしかけ、日の出を待った。
 あたりが次第に明るくなり、太陽が飛び出すと、マウイの号令で男たちがロープを引っぱり、太陽をとらえた。太陽は、動くスピードをゆるめてくれというマウイの要求を拒むが、マウイが棍棒で激しく殴りつけると、ついに降参した。マウイは攻撃をやめ、罠もはずし、男たちと一緒に村に帰った。日は長くなり、村の人々は大喜びだ。
 しかし太陽は、今でもときどき、ゆっくり動くのを忘れることがある。そんな日の短い時期を私たちは冬と呼ぶ。太陽がマウイの猛攻撃を思い出してペースを落とすと、季節は夏になる。


14.おばあさんと忠犬
 おばあさんとその忠犬は、マウンガヌイ山の頂上から海を見下ろしているときに、敵のカヌーが近づいてくるのを見つけた。この一大事を村人に伝えようと山を駆けおりる途中で、おばあさんは崖から海に転落。忠犬もそれを追って海に飛びこみ、どちらも助からなかった。海の神タンガロアは、これを見て心を動かされ、おばあさんと忠犬を岩に変えた。


15. 山たちの戦い
 偉大なる山トンガリロに、タラナキ、タウハラ、プタウアキという3つの男山が戦いを挑んだ。美しい女山ピハンガをめぐる戦いだ。タラナキは燃える岩を、タウハラとプタウアキは溶岩を武器にトンガリロを攻撃したが、ピハンガの必死の叫びも手伝って、勇敢で粘り強いトンガリロが勝利を手にした。
 敗北者たちは去っていった。タウハラとプタウアキは東へ向かった。彼らよりずっと年上で誇り高いタラナキは、苦しみにひとりで耐えようと、反対の方角をめざした。先祖の力を借りて空へと浮かび上がり、西のはずれの地に逃れると、タラナキは、侮蔑の言葉をトンガリロに投げつけた。トンガリロは、かつては友達だったタラナキの罵声を聞いて悲しんだ。女山ピハンガは、やわらかな雲を送ってトンガリロを包み、慰めた。トンガリロとピハンガは、今でもよりそっている。

解説:北島中央部の火山地帯(現在のトンガリロ国立公園)が舞台です。タラナキ山は、北島の西の突端にある独立峰で、標高は約2500メートル。映画「ラストサムライ」では富士山として使われました。伝説では、タラナキが中央から西へ移動した道筋にワンガヌイ川ができるなど、周辺の地形を作り出したとも言われています。

【作者紹介】
アニー・レイ・テ・アケ・アケ
1942年生まれのマオリ女性。ニュージーランド北島のタウランガ出身。小学校教師として長年勤務したあと、1992年に退職し、作家・語り部として活躍。