ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★『大砲のなかのアヒル』(The Duck in the Gun)

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『大砲のなかのアヒル』(「世界・平和の絵本」シリーズ第3巻)
ジョイ・コウレイ(カウリー)文 ロビン・ベルトン絵
ロニー・アレキサンダー/岩倉務 共訳
平和のアトリエ刊 1990年
The Duck in the Gun 1984 NZ
 *1985年ラッセル・クラーク賞受賞作品
*2018年国際アンデルセン賞国際審査員推薦 "15 Very Best Books" の1冊

【ストーリー】
 将軍が、軍隊をひきいてやってきました。城壁に囲まれた町を攻撃するのです。ところが、大砲の中にアヒルが卵を産み、いすわってしまいました。これでは戦争ができません。
 困った将軍は、敵の市長の家へ出かけていきました。きれいな娘さんの案内で市長に面会し、大砲を貸してくれと頼みます。交替で使えば公平だと主張しますが、市長は応じてくれません。結局、3週間の休戦となりました。その間、兵士たちは失業です。市長の提案で、兵士たちは町の家々のペンキを塗りかえ、賃金をもらいました。みすぼらしかった町がきれいになっていきます。
 3週間後、8羽のヒナと一緒に、大砲からアヒルが出てきました。兵士たちは、愛らしいアヒルの親子に万歳三唱。でも将軍が「戦争再開だ!」と叫ぶと、シーンとしてしまいました。兵士たちは、きれいになったあの町を破壊したくないのです。戦争はやめて家に帰りたいのです。将軍は、考えた末に、再び市長に会いにいきました——

【所感】
 1960年代にベトナム戦争反対の気持ちをこめて書かれたお話。初版はアメリカですが、邦訳されたのはロビン・ベルトンの挿絵で制作されたニュージーランド版の絵本です。
 おとぎ話のような雰囲気とシニカルな面をあわせもつ物語に、19世紀のヨーロッパを舞台にした挿絵がぴったりマッチしています。シンプルな設定ととぼけた感じのユーモアは、幼い子どもたちを引きつけるでしょう。主役のアヒルがなかなか顔を出さないので、アヒルの姿をさがしながら読むのも楽しそうです。とはいえ、内容的には、どちらかというと大人におすすめです。
 1羽のアヒルのために休戦を決めるところに、ユーモアと愛を感じました。「アヒルごと撃てばいい」という部下の意見にはなぜか耳を貸さなかった将軍。豪華な軍服を着ていばりくさった姿とのミスマッチに、クスッと笑ってしまいます。将軍は、こっそりアヒルに差し入れもしています。
 アヒルをかわいいと思える心の余裕があれば、戦争なんかしないはず。今、戦争をしている一人の独裁者は、余裕がないから攻撃的になり、和解の仕方もわからないのだと思います。戦争をやめるきっかけが、一刻も早く見つかることを祈ります。

【作者紹介】
ジョイ・カウリー/文
★ニュージーランドを代表する児童文学作家
★2018年国際アンデルセン賞作家賞最終候補者

ロビン・ベルトン/絵
 1947年ニュージーランド北島生まれのイラストレーター、絵本作家。ニュージーランドの児童図書賞絵本部門で受賞歴多数。ジョイ・カウリーとの共作に Greedy Cat(仮題「よくばりネコ」)シリーズなど。邦訳は本書のほか、『なんでもできる日』(ジェニファ・ベック文/たかはしえいこ訳/すぐ書房)がある。