ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★I Am the Universe (仮題『わたしは宇宙』)

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【基本情報】
書名:I Am the Universe (仮題『わたしは宇宙』)
   *2021年ニュージーランド・ブックラヴァーズ賞児童書部門受賞作品
   *2021年ニュージーランド児童書及びYA小説賞ラッセル・クラーク挿絵賞候補作品

作者:ヴァサンティ・アンカ (Vasanti Unka) 文・絵
出版社:Penguin Random House NZ  出版年月:2020年9月
ISBN:9780143773443 サイズ:315×245ミリ(ハードバック)
ページ数:32
読者対象:3歳ぐらいから
*試訳(全訳)あります

【概要】
 宇宙、銀河、地球、そしてわたしたちの社会……それぞれをクローズアップして、あざやかなイラストと短いテキストで紹介。わたしたちは宇宙の一部だと感じさせてくれる絵本。

  【内容紹介・評価】
 14の見開きページで構成される本書は、次のように始まります。

     わたしは宇宙。
     はてしなく広いなかに、
     きらめく銀河がどっさりあるよ。

     わたしは銀河。
     きらきら光る星たちでできた
     うずまきだよ。

 このあと、太陽系、太陽、月、地球と徐々に近づき、後半は町や家族の描写、そして最後はひとりの子どもが星空を見上げる様子で結ばれます。わたしたちは宇宙の一部。すべてはつながっている。そんなことを意識させてくれる絵本です。
 見開きごとに趣向を凝らした構図で描かれたイラストには、子どもの絵のような伸びやかさと、繊細さとが同居しています。あざやかな色使いは、インド系ニュージーランド人であるヴァサンティ・アンカならではといえるでしょう。
 宇宙や地球を自分たちの社会とつなげて考えるというテーマにも、アジアからの移民の子孫であるアンカらしさを感じます。街や住宅地を描いたページには、さまざまな人種の住人が多種多様なことを楽しんでいる様子がカラフルに描かれており、ひとりひとりを尊重しながら共存できる社会にしようというメッセージが感じられます。
 他の英語圏国家と同様に、ニュージーランドも多民族国家であり、19世紀以来の白人中心社会の中で、先住民や、ヨーロッパ以外の地域からの移民たちが差別されるという歴史がありました。そんな差別を少しずつ解消しながら、世界各地からの難民を受け入れるという人道的な政策が実行される中で、2019年、白人至上主義者によるモスク銃撃事件という悲劇が起きます。そして2020年、人々はコロナ禍で閉じこもる生活を余儀なくされます。そんな背景を意識すると、より深く味わえる作品です。本書のメッセージは、まさにユニバーサル。さらりと読んでも深く読んでも楽しめる良書だと思います。

【作者紹介】
ヴァサンティ・アンカ
 ニュージーランド、オークランド在住の絵本作家、グラフィックデザイナー。絵本 The Boring Book で2014年マーガレット・マーヒー年間最優秀図書賞を受賞。2011年ラッセルクラーク賞を受賞した絵本 Hill & Hole は日本でも出版されている(邦題『やまとあな』カイル・ミューバーン文/おおさくみちこ訳/ワールドライブラリー)。