ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Pioneer Women (仮題『開拓時代の女性たち』)

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【基本情報】
書名:Pioneer Women (The NZ Series)
「ザ・ニュージーランド」シリーズ『開拓時代の女性たち』(仮題)

編者:サラ・エル(Sarah Ell) 出版元:Oratia Books 発行年月:2019年7月
ページ数:100 サイズ:24×16cm(ペーパーバック) ISBN:9780947506599
対象年齢:小学校高学年から
※二色刷り。各章に数点ずつ画像あり。

【概要】
 ニュージーランドの開拓時代を紹介する歴史ノンフィクション。19世紀に英国から渡った女性たちの手紙や手記を編纂したもの。

 【構成】
・まえがき
1.海を越えて
2.新天地での生活
3.冒険・探検
4.戦争と災害
5.働く女性たち
※章番号は、便宜上こちらでつけました。

【内容】
「1.海を越えて」は3つの手記から成る。1885年に移住した女性が英国の家族に宛てた手紙には、ニュージーランドへの移住に適した職業、階級、性格などがまとめられている。他2つは航海の記録で、長期にわたる船旅の厳しさや慰め、はしかの流行や精神に異常をきたした乗客の様子などが書かれている。

「2.新天地での生活」は4つの手記から成り、到着直後のこと、開拓地の住居や農場の様子、未開の地ならではの物騒さ、物々交換で暮らしが成り立っていたことなどが書かれている。医師がほとんどいなかった時代の、出産や病気の治療についてもふれられている。

「3.冒険・探検」には3つの手記。火山島のハイキング、旅行中に宿泊したホテルでの悲惨な経験、測量技師の父とともに現在のミルフォード・トラックを歩いた11歳の少女の手記と、生活に比較的余裕があったと思われる女性たちの記録が並ぶ。

「4.戦争と災害」には、白人とマオリが対立していた1840年代の北島北部での動乱、1855年のウェリントン地震、1867年のカンタベリー大雪、1886年のタラウェラ山噴火という4つの出来事に関する手記が収録されている。

「5.働く女性たち」は、開拓地での忙しい毎日に生きがいを感じている女性の日記、夫に先立たれて今後の生活を案じる女性が姉に書いた手紙、料理学校の講師の仕事に胸を躍らせる女性の手紙と3つ続いたあと、最後の項には、3人の女性労働者(繊維工場の従業員、洗濯屋の従業員、住み込みのメイド)の文章が並ぶ。これは、労働環境の改善をめざして政府に提出された文書からの引用であり、苛酷な長時間労働が報告されている。

【感想・評価】
 冒頭に書かれた移住者の適性の部分を読んだ時点で、開拓地の暮らしの厳しさに思いをはせ、ニュージーランド女性の強さに納得した。世界1早く参政権を獲得した19世紀後半の女性や、アーダーン首相に代表される現代女性の強さのルーツは、開拓者魂にあるのだろう。
 開拓地で必要とされていた人材は、大工や鍛冶屋など、生活に必要不可欠な物を作る職人と、体の丈夫な働き手だった。女性には、開拓者の花嫁となり、家庭を切り盛りして子どもを育てることが求められていたが、人手が足りなければ肉体労働でも医療行為でもなんでもやらなければならなかった。上流階級や上級召使い、繊細な人や夢想家は向いていないとのこと、もっともである。
 自分は開拓者に全く向いていないと気づき、冒頭からガツンと殴られたような気持ちになったが、読み進めるとどの手記も興味深く、開拓者への尊敬の念を抱いた。開拓時代のニュージーランドを知る喜びも感じた。分類や構成が見事でたいへん読みやすく、編者を高く評価したい。

【編者紹介】
サラ・エル:作家、記者、編集者。1970年オークランド生まれ。マッセイ大学で文学士号を、オークランド大学で創作の修士号を取得。新聞記者を経て、雑誌の記事や本の執筆、編集で活躍。これまでに、YA小説、子ども向けノンフィクション、大人向けノンフィクションを出版。海が好きで、ヨットレースにたびたび出場している。夫、子どもとオークランド在住。

【関連図書】
『がんばりかあさんと6人の子どもたち』(The Runaway Settlers)
               エルシー・ロック作/百々佑利子訳/ポプラ社/1984年
*19世紀にオーストラリアの開拓地で暮らしていた女性が、飲んだくれの夫のもとを逃れて子どもたちとニュージーランドに移住し、たくましく生きていくという実話。