ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Bess :The Brave War Horse(仮題『勇気ある軍馬ベス』)

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【基本情報】
書名:Bess :The Brave War Horse(仮題『勇気ある軍馬ベス』)
作者:スーザン・ブロッカー(Susan Brocker)文/レイモンド・マグラス(Raymond McGrath)絵

出版社:Scholastic New Zealand
出版年月:2019年3月
ISBN:9781775435563
サイズ:225×270ミリ(ハードカバー)
ページ数:本文31ページ/作者あとがき1ページ
読者対象:小学生以上

*試訳(本文と作者あとがき)あります

【概要】
 第1次世界大戦時にニュージーランドから戦地に送られた1万頭もの軍馬の中で、幸運にも帰国できた唯一の馬ベスの戦争体験を描いたノンフィクション絵本。

 【あらすじ】
 ニュージーランドの草原で育った健康で美しい黒馬ベスは、第1次大戦が始まった1914年に軍馬になる。7週間にわたる厳しい船旅の末にエジプトに到着。砂地と暑さという慣れない環境に苦しみながら訓練に耐え、主人のパウルズ大尉を乗せて戦闘に参加。激しい戦闘を生き抜いて終戦を迎えたのち、ほとんどの馬がエジプトに取り残される中*、ベスは幸運にもニュージーランドに帰国することを許され、緑の草原で余生を送った。
                       *厳しい検疫と輸送船不足が理由

【解説・評価】
 本書は、同じ作者が2010年に発表したノンフィクション読み物 Brave Bess and the ANZAC Horses を土台に、実在した軍馬ベスの戦争体験を追う形で書かれた絵本だ。7週間の船旅、エジプトの駐屯地、そして戦闘の様子が、ベスの視点で描かれている。
 強く印象に残るのは、馬と兵士の信頼関係、子どもたちが馬を見て喜ぶ様子、馬が帰国できないと知ったときの兵士の悲しみなど、悲惨な殺し合いの現場に存在した愛だ。最後は、幸運にもニュージーランドに帰国したベスが緑の草原をかけまわり、少年を背中に乗せる幸せな場面で結ばれている。動物を愛する女性作家ブロッカーらしい作品である。
 本書と同様に第1次大戦の軍馬をモチーフにした作品『戦火の馬』(マイケル・モーパーゴ作/佐藤見果夢訳/評論社)でも、兵士たちが馬を愛するやさしい気持ちを持ち続けていたことに救いを感じた。併せて読むことの意義は大きい。第1次大戦の悲惨さや、馬とともに戦う戦争があったことを伝える本が、日本でももっと紹介されてほしいと思う。古い戦争を知ることが、第2次大戦や現代兵器を使った戦争について考えることにもつながる。文字だけでなく視覚にうったえるものも必要だ。
 本書のイラストは、奇をてらうことなく文に寄り添って事実を伝える役目を果たしている。やわらかいタッチでほどよく写実的な、温かみのある絵だ。

【作者紹介】
スーザン・ブロッカー(文)
 ニュージーランド北島で生まれ育つ。ワイカト大学で歴史を専攻。学習教材の執筆者、編集者として活躍したのちにフルタイムの作家となり、子ども向け読み物の執筆を始める。動物を絡めて家族や友情を描いた読み物、特に歴史ものを得意とし、確かな筆力を持つ。代表作は、第2次世界大戦の銃後の暮らしと少女の成長を描いたDreams of Warriors、ウェリントンの街でサーカスから逃げ出した狼を助ける少年の物語 Wolf in the Wardrobe 、第1次大戦を描いたYA向けシリーズ Kiwis at Warの第1巻1914 Riding into War など。北島北部のタウランガで、夫と愛犬、愛馬ほかたくさんの動物たちと暮らしている。

レイモンド・マグラス(絵)
 絵本作家、イラストレーター、デザイナー、アニメーション製作者、ミュージシャンとして幅広く活躍。テレビの教育番組にも関わる。2015年に絵本 Have You Seen a Monster? がラッセル・クラーク賞(現NZ児童書及びYA小説賞ラッセル・クラーク挿絵賞)候補作品に選ばれる。