ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Violet Mackerel シリーズ第4巻 Violet Mackerel's Personal Space(仮題『バイオレット・マケレルと自分だけの空間』)

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【基本情報】
書名:Violet Mackerel's Personal SpaceViolet Mackerel シリーズ第4巻)
   仮題『バイオレット・マケレルと自分だけの空間』

作者:アナ・ブランフォード (Anna Branford) 文/サラ・デイヴィス (Sarah Davis) 絵
Walker Books Australia 2012年4月 ハードカバー ISBN: 978-1921529207
ページ数:112(本文102/挿し絵多数) サイズ:18.5×13.5×1.4 cm 
読者対象:小学校低学年から

【概要】
 いいニュース:ママとビンセントが結婚する。 悪いニュース:この家から引っ越す。
 バイオレットの兄ディランにとっては、どちらも悪いニュースだったようで、庭にテントを張ってこもってしまいます。はたして結婚式は無事に行われるのでしょうか? 住み慣れた家との別れを惜しむバイオレットの気持ちにも注目。

 
【あらすじ】
 夏休みを海辺の貸別荘で過ごしたマケレル一家。短い間ながら「自分だけの空間」だった2段ベッドを去るのがなごりおしいと思ったバイオレットは、砂浜で見つけた緑色のガラスのかけらを、ベッドの板の隙間に押し込みました。バイオレットの新しい法則は、「ちっちゃな何かを残していけば、その場所には自分の一部も残る」です。
 帰宅すると、ママとビンセントが重大発表をしました。ビンセントは、マケレル一家が朝市で出会って以来、ママのボーイフレンドとなり、いまでは家族同然です。そしていよいよ、ママとビンセントが結婚するのです。最初はびっくりして言葉を失ったバイオレットですが、すぐにうれしい気持ちになりました。ニコラもそうです。でも、ディランは違いました。ママが、結婚したらみんなで新しい家に引っ越すというと、ディランは「いやだ」といって、自室に引き上げていきました。
 そのあとディランは、穴だらけの古いテントを庭に張って、中にこもってしまいました。テントは、ずっと前に出ていったほんとうのパパの持ち物です。バイオレットは、食べ物や手紙を差し入れましたが、ディランから反応はありません。ほかのみんなが、結婚式の準備と家さがしに追われている間も、ディランは、テントという自分だけの空間にこもったままでした。でも、ひどい嵐になった夜は、さすがに根をあげたようで、びしょ濡れで家に入ってきました。ママはそんなディランをぎゅっと抱きしめました。
 翌朝、ビンセントがディランに声をかけ、一緒にテントを修理しました。元バックパッカーのビンセントは、そういうことが得意なのです。修理が終わり、濡れた物がすべて乾くと、ディランはテントに戻ってしまいました。
 新しい家も決まり、結婚式前日になりました。結婚式は、友だちを数人だけ呼んで、いま住んでいる家の庭で行います。ママはディランに手紙を書き、1枚の写真と一緒にテントに差し込みました。バイオレットもその写真を見ました。バイオレットが生まれる前の家族写真です。パパ、ママ、ニコラ、そしてディランが写っています。ちっちゃなディランは、パパに肩車されていました。
 いよいよ結婚式当日。早朝に目をさましたバイオレットが庭を見おろすと、ディランがすわっていました。バイオレットはディランに「ちっちゃな物を残す法則」のことを話し、ディランのチェスの予備の駒とバイオリンケースのスペアキーを、庭に埋めました。ふたりは静かに、引っ越したくないという寂しい気持ちを共有しました。そのあとディランは、自主的にテントを片付け、バイオレットも一緒に庭を掃除しました。ニコラもやってきて、木に飾りつけをしました。そのあとやってきたママを、ディランは黙ってハグしました。〈以下略〉

【感想・評価】
 今回のエピソードでは、バイオレット自身はトラブルを起こすことも、派手な妄想に浸ることもない。中心となるのは、兄ディランの静かな反抗だ。母の再婚に動揺してテントにこもってしまうディラン。その様子がバイオレット目線で描かれ、ディランの寂しさ、怒り、葛藤など、心の動きが静かに、そして見事に表されている。静かに見守りながら愛情表現を忘れない母や、余計なことはしないけれど、元バックパッカーならではの役割を果たすビンセントも、なんてすてきな大人なんだろうと思わせる。
 静かに見守るという点では、バイオレットも母親によく似ている。幼いながら、人の気持ちに土足で入り込むようなことはせず、さりげなく兄に寄りそう様子は、見習いたいぐらいだ。最終章で、住み慣れた家との別れを惜しむ様子には、慣れ親しんだ物を大切に思う気持ちがよく表れている。
 巻を追うごとに、バイオレットのことがどんどん好きになっていく。ハイテクや流行に毒されることなく、自分の世界を育んでいるバイオレット。無邪気でかわいいだけでなく、人の気持ちがわかるやさしい女の子だ。次の巻を読むのが楽しみであるのはもちろんのこと、どんな大人に育っていくのだろうということにまで、思いをはせてしまう。シリーズを通して手作りの魅力も描かれていて、不器用な私でも、何かを作ってみたいという気持ちにさせられる。日本の子どもたちにぜひ読んでもらいたいと、改めて思った。

【他国版情報】
英国版:Sam Wilson 絵/Walker Books Ltd./978-1406326963
米国版:Elanna Allen 絵/Atheneum Books for Young Readers/978-1442435926


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