ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Violet Mackerel シリーズ第2巻 Violet Mackerel's Remarkable Recovery(仮題『バイオレット・マケレルのめざましい回復ぶり』)

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【基本情報】
書名:Violet Mackerel's Remarkable RecoveryViolet Mackerel シリーズ第2巻)
   仮題『バイオレット・マケレルのめざましい回復ぶり』
作者:アナ・ブランフォード (Anna Branford) 文/サラ・デイヴィス (Sarah Davis) 絵

Walker Books Australia 2011年4月 ハードカバー ISBN: 978-1921529184
ページ数:112(本文104/挿し絵多数) サイズ:18.5×13.5×1.4 cm 
読者対象:小学校低学年から

【概要】
 扁桃腺の手術をしたバイオレット。オペラ歌手みたいな声の持ち主になることを楽しみに、自宅療養中。でも、手術の前に待合室で仲良くなったおばあさんのことが恋しくてたまらない。連絡先がわからないけど、どうしても会いたい!

 
 【あらすじ】
 扁桃腺炎にかかったバイオレット。ママと一緒にお医者さんに行くと、扁桃腺除去手術を受けることを勧められました。手術は簡単なものだし、終わったらアイスクリームを食べながら家で休んでいればいいのだとお医者さんはいいます。それに、手術をすると、声が少し変わる人もいるそうです。オペラ歌手みたいな声になるかもしれません。バイオレットは、自分の歌声が評判になることを想像し、ちょっとわくわく。手術を受けて、お医者さんも驚くようなめざましい回復ぶりを見せてやろうと決めました。
 とはいえ、手術当日になると、バイオレットは緊張しました。病院の待合室には、ひとりのおばあさんがいました。ママは、なんだか見覚えのある人だといいます。バイオレットが話しかけると、おばあさんは、自分も緊張しているといいました。腕が痛くて大好きな庭仕事ができないので、これから手術するそうです。名前はアイリス・マクドナルドさんです。アイリスさんとバイオレットは仲良しになり、待ち時間を楽しく過ごしました。そして、元気になったらお茶をする約束をして、それぞれの手術にのぞみました。
 バイオレットの手術は、眠っている間に終わり、その日のうちに自宅に帰って自分のベッドで休みました。でも、のどはまだ痛いし、体はふらふらしています。めざましい回復には何日かかかるようです。翌日、バイオレットの湯たんぽの栓が開かなくなってしまいました。ママのボーイフレンドのビンセントが、きつく締めすぎたせいです。バイオレットは、急にアイリスさんのことを思い出しました。腕の手術をしたら、スーパー・アームになって、どんなにかたいびんの蓋でも開けられるようになるねと話していたのです。湯たんぽはどうでもいいのですが、アイリスさんに会いたくてたまらなくなりました。でも、電話番号を交換しなかったので、連絡の取りようがありません。
 ビンセントは、せっかくできた友だちでも、1度きりしか会えないこともあるといいます。バックパッカーだったので、そういう経験がたくさんあるのです。そんな時は、お星さまにメッセージを託すのだそうです。その夜バイオレットは、お星さまに向かって、アイリスさんへメッセージを送りました。寝る前には、「アイリス・マクドナルドのお気に入り」という詩を書きました。有名な映画(『サウンド・オブ・ミュージック』)の中で歌われる、「私のお気に入り」の替え歌です。
 療養中バイオレットは、ラジオをたくさん聴きました。たいていはオペラ番組でしたが、あるとき、園芸のお悩み相談番組を聴きました。リスナーが電話で質問をして、別のリスナーが答えるのです。スミレ(バイオレット)に関する質問に、女の人が答えました。最後に司会者が名前を聞くと、その人はアイリス・マクドナルドと答えました! バイオレットは、すぐさまその番組に電話をかけました。司会者に直接つながり、ラジオで流れます。バイオレットは、アイリス・マクドナルドさんと病院で会ったことを話しました。スーパー・アームのことや、オペラ歌手のことも。自分はいつかオペラ歌手になってラジオで歌うのだというと、「いま歌ってみたら?」と司会者がいってくれたので、バイオレットは、「アイリス・マクドナルドのお気に入り」を歌いました。最後はオペラ歌手のように声を震わせることができました。バイオレットののどは、いつのまにか回復していたのです。〈以下略〉

【感想・評価】
 第2巻である本作も、ユーモア、かわいらしさ、温かさが織りこまれた魅力的なストーリーだった。豊かな想像力で妄想をふくらませる女の子の話だが、読んでいてぷっと吹き出すというより、自然とほほえんでしまうような雰囲気を持っている。年の離れた姉と兄以外、子どもは登場しないため、バイオレットのペースが保たれており、ゆったりしていて心地よい。この点が、「ジュディ・モードとなかまたち」シリーズや「クレメンタイン」シリーズとの違いであり、本シリーズ独特の味わいだと思う。アイリスさんという年配の女性とのやりとりは、『ロッタちゃんのひっこし』(リンドグレーン作/山室静訳/偕成社)の、ロッタちゃんとベルイおばさんを彷彿とさせ、ほのぼのとしている。スピード感がある話や思い切り笑える話も魅力的だが、本書のような物語も、子どもたちには必要だ。
 小さなものが好きなバイオレット。今回も、「困っている人に小さなものをプレゼントすると、その人の助けになる」という独自の法則が、さりげなくも上手に話に織りこまれている(手術前、アイリスさんにトローチをプレゼントするというエピソードがある)。スミレの花のからませ方もうまいし、スーパー・アームと助産師というつながりも見事だ。楽しく読み進み、最終章では、バイオレットやママと一緒にびっくりして、幸せな気持ちで本を閉じた。

 

【他国版情報】
英国版:Sam Wilson 絵/Walker Books Ltd./978-1406326949    

米国版:Elanna Allen 絵/Atheneum Books for Young Readers/978-1442435896

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