ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Violet Mackerel シリーズ第1巻Violet Mackerel's Brilliant Plot(仮題『バイオレット・マケレルのとびきりいかした作戦』)    

 今回はオーストラリアの読み物のシリーズです。1巻ずつ紹介していきます。

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【基本情報】
書名:Violet Mackerel's Brilliant Plot(Violet Mackerel シリーズ第1巻)
   仮題『バイオレット・マケレルのとびきりいかした作戦』
   *2011年オーストラリア児童図書賞 低学年向け (Younger Readers) 部門オナー作品

作者:アナ・ブランフォード (Anna Branford) 文
   サラ・デイヴィス (Sarah Davis) 絵
出版社:Walker Books Australia
出版年月:2010年11月
ページ数:112(本文100/挿し絵多数)
サイズ:18.5×13.5×1.4 cm
ISBN: 978-1921529177(ハードカバー)
読者対象:小学校低学年から
*試訳(部分訳)あります

【概要】
 朝市で売っている青い鳥の置き物がほしくてたまらなくなったバイオレット。手に入れるために、とびきりいかした作戦を実行しますが……。オーストラリアに住む想像力豊かな女の子の、愉快で心温まるエピソード。

 
【あらすじ】
 バイオレット・マケレルは小学校低学年の女の子。ママ、姉のニコラ、兄のディランと4人で暮らしています。バイオレットには、自分なりの理論があります。そのひとつは、「小さくてすてきなものを発見したら、その時に考えていたことは、とても尊(とうと)いことだ」というもの。名づけて、★ちっちゃなもの発見の法則★です。
 今日は土曜日なので、朝5時に起きました。毎週土曜日には、朝市にお店を出すのです。ママは手編みのニットを、ニコラは手作りのイヤリングを売ります。ニコラは、お金を貯めて、有名な美容師にカットをしてもらいたいのです。ディランは、お店の脇でバイオリンを弾いて、お客さんにコインを投げてもらいます。ディランがほしいものは、カメラです。バイオレットにもほしいものがあります。それは、朝市で売られている青い鳥の置き物です。その店の男の人は、笑わないしあいさつもしてくれないけれど、バイオレットは、なんとなく好きでした。
 バイオレットは、朝市の会場で、小さくてすてきな赤いボタンを拾いました。ちょうど青い鳥のことを考えていたときです。ちっちゃなもの発見の法則により、この思いはとても尊いものなのだと気づいたバイオレットは、なんとしても青い鳥を手に入れたくなりました。でも、それは10ドルもするので、とびきりいかした作戦が必要です。バイオレットは、あの店の男の人は考古学者なのだと思いました。鳥の置き物はどれも汚れているので、どこかで発掘しているに違いありません。バイオレットも、土を掘って大昔の宝物や恐竜の骨を見つけようと思いました。きっと高く売れるでしょう。
 その日の午後、バイオレットは、庭をシャベルで掘りました。掘って掘って掘りまくります。すごいものを見つければ、ニコラのヘアカットとディランのカメラ代も出してあげられるかもしれない。有名になってテレビに出ちゃうかもしれない。そんな妄想もふくらみます。ところが、庭を掘るのは大失敗だったようです。ニコラはかんかんに怒っているし、ママも困った顔をしています。そして、庭は変わり果てた様子になっています。
 バイオレットは、自分の部屋でわんわん泣きました。しばらくするとママが来て、失敗はだれにでもあると慰めてくれました。それから一緒に球根を買いにいき、庭に植えました。バイオレットは、何も発掘できなくて残念だったけれど、この庭に花が咲くのだと思うと、うれしくなりました。
 翌日の日曜日、バイオレットはママに編み物を教わりました。ところが、ちっともうまくいきません。ママは、自分も最初は下手だったのよといって、失敗作がどっさり入った箱を見せてくれました。バイオレットは、もこもこしたチューブ状のものをとりだしました。ママがレッグウォーマーのつもりで編んだそうですが、脚にはめるにはあまりにもゆるゆるです。バイオレットは、自分の部屋から「ちっちゃな物コレクション」の箱を持ってきて、ビーズやボタンやリボンなどを、レッグウォーマーに糸で結びつけました。
 次の日も、その次の日も、学校から帰ってくると飾りつけを進めました。そして金曜日に、先週拾った赤いボタンをつけて仕上げました。明日の朝市でこれを売ってはどうでしょう。ママにきくと、いいわよといってくれました。バイオレットは、これを「チューブマフラー」と名づけました。頭からかぶって首にふわりとかけ、中世の頭巾のように頭も覆うのです。これを10ドルで売れば、青い鳥を買うことができます。バイオレットはわくわくしました。でも一方で、こんなすてきなものを手放したくない、売れてしまったら悲しいという思いにもかられていました。
 翌土曜日、また5時に起きて家族で朝市に行きました。ニコラは、イヤリングがあと2個売れればヘアカットができます。ディランのほうは、もう少しがんばらないといけません。バイオレットは、ママのお店の準備を手伝ったあと、青い鳥を見にいきました。ところが、いつもの店を見てみると、青い鳥がありません。売れてしまったのでしょうか? バイオレットは動揺し、店の男の人に話しかけました。「だれか青い鳥を買っちゃったの?」男の人は耳が悪いようで(難聴だということがあとでわかりました)、すぐには答えませんでしたが、驚いたことに、にこっと笑ってくれました。バイオレットがもう一度尋ねると、青い鳥はこれから出すところだと答えてくれました。「いつも最後に並べるんだ。実はね、とても気に入ってるから、売れなければいいなと思ってるんだよ」〈以下略〉

【感想・評価】※結末にふれています
 小さくて軽量のハードカバーで、表紙の絵は、幼すぎないかわいらしさ。本好きの女の子が自分だけの宝物にできるようなデザインになっているところが、まず魅力的だ。
 内容は、発想力豊かな女の子の日常生活を描いたリアリズムで、類書に「ジュディ・モードとなかまたち」シリーズ(メーガン・マクドナルド作/宮坂宏美訳/小峰書店)や「クレメンタイン」シリーズ(サラ・ペニーパッカー作/前沢明枝訳/ほるぷ出版)があげられる。本書には学校での場面はなく、舞台となるのは自宅と朝市だけ。登場人物も少なくこぢんまりとしており、ほかの子どもといえば兄と姉だけで、あくまでも主人公のバイオレットに寄りそった書き方だ。ハイテクな物はほとんど登場せず、身近な物、手作りの物の魅力を感じさせてくれる。
 バイオレットの父親については、「家を出ていった」と言及されているのみだ。母親の職業も、第1巻である本書ではふれられていないが、3人の子どもがいる母子家庭の暮らしは、決して楽ではなさそうだ。やはり母子家庭の暮らしを描いた米国の名作『元気なモファットきょうだい』(エレナー・エスティス作/渡辺茂男訳/岩波書店)と同様に、お金持ちではないけれど、愛情をたっぷり注いでくれる母親のもと、豊かな心をはぐくみながら元気に育つ子どもの姿が描かれている。時代に振り回されない普遍性が貫かれ、ハプニングやユーモアを盛りこみながらも、ドタバタしすぎない落ち着いた雰囲気を持つ良書だ。バイオレットが思いがけず青い鳥を手に入れるという結末までのストーリー運びも自然で、作者の筆力を感じる。
 シリーズを通していえることだが、お金やハイテクに頼らないマケレル一家の生き方も魅力的で、見習うべきことがたくさんある。幼いバイオレットは、私たちが忘れかけている物や、私たちには見えていない物をしっかり見つめているのだろう。
 挿し絵が果たす役割も大きい。物語をしっかり読みこんで描かれており、文との不一致など、読んでいて引っかかることは皆無だった。サラ・デイヴィスの絵は、「インガルス一家の物語」シリーズのガース・ウィリアムズや、リンドグレーンの著作のイロン・ヴィークランドの挿し絵を彷彿とさせ、いかにも児童文学らしい味わいがある。ただ、人物の絵は仰々しい感じもあり、現代の子ども向きではないのでは?という声も聞く。米国版の挿し絵のほうが親しみやすいかもしれない(米国版情報はこの記事の一番下にあります)。
 第2巻以降も、家族、友達、同じ町に住む人など身近な人々と関わりながら、ゆったりと少しずつバイオレットの世界が広がっていく様子が描かれる。フランスやトルコでも出版されている人気シリーズ、まずは第1巻を、日本の子どもたちに届けたい。


【作者紹介】
アナ・ブランフォード(文)
 1975年、マン島生まれ。スーダン、パプア・ニューギニア、オーストラリアで育つ。現在はメルボルンに住み、ヴィクトリア大学で社会学を教えながら子どもの本を執筆している。他の作品に、低学年向き読み物 "Neville No-Phone"、"Sophie's Salon"、絵本 "Lilli-Pilli's Sister"(Linda Catchlove 絵)などがある。人形作りなど手芸も得意で、手作りの品をマーケットで売っている。

サラ・デイヴィス(絵)
 オーストラリア、ニュージーランドで活躍中のイラストレーター。1971年英国生まれ。米国、スウェーデン、ニュージーランドで子ども時代を過ごす。ニュージーランドの高校で教員として勤務した後、2004年にオーストラリアに移住。イラストレーターとしてさまざまな分野で絵やデザインの仕事を経験。現在は児童書のイラストを中心に活躍している。絵本 "Marmaduke Duck" シリーズ(Juliette MacIver文/Scholastic NZ)、"Fearless" シリーズ(Colin Thompson文/Abc Books)、読み物 "The Anti-Princess Club" シリーズ(Samantha Turnbull文/Allen and Unwin)など、挿絵を手掛けた作品多数。

 

【他国版情報】

英国版:Sam Wilson 絵/Walker Books Ltd./978-1406326932

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米国版:Elanna Allen 絵/Atheneum Books for Young Readers/978-1442435865

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