
【基本情報】
書名:Iris and Me (仮題『アイリスとわたし』)
著者:フィリパ・ウェリー(Philippa Werry)
出版社:Cuba Press(New Zealand)
出版年:2023
頁数:179
ISBN:978-1991150844
対象年齢:中学生以上
☆2023年ニュージーランド児童ヤングアダルト図書賞ヤングアダルト部門受賞作品
☆2024年IBBY(国際児童図書評議会)オナーリスト掲載作品
【概要】
ニュージーランドの著名な文筆家ロビン・ハイドについて綴った作品。1938年の旅の記録と過去の出来事の回想という内容。事実に基づいているが、ノンフィクションではなく、詩形式の小説(ヴァースノベル)として発表されている。
【アイリスとは?】
ニュージーランドの著名な文筆家アイリス・ウィルキンソン(1906-1939)のこと。ジャーナリスト、詩人、小説家であり、ロビン・ハイドの筆名で知られる。
【内容紹介】
アイリス・ウィルキンソン(筆名ロビン・ハイド)の生涯を綴った、詩形式の一人称小説。物語は1938年の旅を追う形で進み、その合間に過去の出来事が挿入されている。語り手は本人ではなく、一緒に旅をした相棒である。相棒の正体は、はじめは謎めかせてあるが、脚が不自由だったアイリスの杖であることが、中盤で明かされる。
幼い頃から好奇心旺盛で負けん気が強かったアイリスは、女性に活躍の場がほとんどなかった20世紀前半のニュージーランドで、自由奔放な生き方を求め、文筆業で生計を立てようとする。しかし、18歳で原因不明の病により杖が手放せなくなり、20代では幸せでない恋愛を経験。秘密裏に出産しシングルマザーとなるが、子どもは預けざるを得なかった。当時は社会保障制度が整っていなかった上に、勝ち気な性格も災いし、アイリスは孤立していく。オークランドに転居し、新聞記者として働くが、心を病み海に身を投げる。命は取り留めたものの、精神病院に長期入院となる。その間も執筆は続け、著書数冊が出版されるが、退院後も追い詰められた気持ちのまま、フェミニズム、ソーシャリズムへ過剰に傾いていく。
32歳になる1938年、英国をめざして1人で旅立つ。シベリア鉄道に乗車してその鉄道の旅を記事にするためである。また、版元出版社のある英国で成功できるかもしれないという思いもあったようだ。
ところが、途中、香港滞在中に、日中戦争を逃れて中国からやってくる避難民を目の当たりにしたことをきっかけに、予定を変更して戦火の中国へ向かう。女性の戦場特派員の先駆けとなるのだが、その旅は無謀だった。脚が不自由で言葉も通じない女性が、単身で戦場に入っていったのだ。汽車から飛び降りたり、負傷して失明の危機に陥ったり、ただたださまよい歩いたり。本国で行方不明と報道される中、ボロボロになった状態で、青島にて保護される。同年9月、目的地だった英国に到着するが、極貧と孤独な毎日。英国に行くという気持ちが心の支えだったが、夢破れ、翌年自殺した。
【感想・評価】※結末にふれています。
文才があり、自分らしく活躍したいという思いが人一倍強い女性だったが、結果的に破滅の道を歩んだアイリス。当時、シングルマザーに支援の手はなく、やむなく預けた息子デレクの養育費を稼ぐために無茶して働いたとこともあり、心身を病んでしまったアイリス。子どものことは家族や友人にも内緒にしていたので、孤立していくばかりだったアイリス。
語り手は名もない杖なので、歩行を助けることしかできないが、アイリスの絶対的な味方だ。何の口出しもせず、ただただ見守る存在。作者のフィリパ・ウェリーが、敬愛するロビン・ハイドへの思いを、杖に語らせているのだ。ウェリーは、近年、子どもたちの間でヴァースノベルの人気が高いと知ったことをきっかけに、長い間惹かれていたロビン・ハイドとその人生について、この形式で書こうと決めたという。本書には亡くなるところまでは書かれておらず、英国での苦しい生活の中で書き続けるアイリス=ロビン・ハイドに向けてのねぎらいと、あなたの言葉がいつまでも生き続けますようにという願いで結ばれる。アイリスに寄り添い続けた杖のこの言葉に、ロビン・ハイドを知らなかった私も心を動かされ、グッときた。
日中戦争について語られるので、当然、日本軍の蛮行についてもふれられている。私の祖父は1939年に兵士として中国に行き、戦死している。本書を読んでいるとそのことを意識せずにはいられないので、複雑な気持ちになる。しかし、日中戦争について書かれているからこそ、本書が日本の読者に届いてほしいと思う。
【参考】
■NZ History ウェブサイト内ロビン・ハイド紹介ページ
https://nzhistory.govt.nz/people/robin-hyde
■Read NZウェブサイト内ロビン・ハイド紹介ページ
https://www.read-nz.org/writers-files/writer/hyde-robin
【著者紹介】
フィリパ・ウェリー
ウェリントン在住の作家。1958年生まれ。大学卒業後は海外で暮らし、帰国して図書館司書に。結婚後、子育てをしながら執筆活動に取り組む。歴史をモチーフにした作品を数多く執筆し、フィクション、ノンフィクションともに高く評価されている。