ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Diary of a Frog(仮題『ムカシガエルの日記』)

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【基本情報】
書名:Diary of a Frog(仮題『ムカシガエルの日記』)
作者:Sally Sutton(サリー・サットン)/文
   Dave Gunson(デイヴ・ガンソン)/絵
出版社:Scholastic New Zealand
出版年月:2013年6月
ISBN:978-1775431527
ページ数:60ページ(作者前書き1ページ/本文51ページ/ムカシガエルの解説1ページ)
読者対象:小学校低学年、中学年
*試訳(部分訳)あります

【概要】
『プケコの日記』のサリー・サットンによる、ニュージーランドの生きものの日記シリーズ(全4作)の3作目にあたる。日記の書き手は、ムカシガエルの女の子。人里離れた水辺にすみ、ムカシガエルの学校に通う毎日。「カエルの王子さま」の劇でお姫さま役をねらっていたのに、オーディションで落とされてショックを受ける。ところが豪雨のあと、お姫さま役の女子が行方不明に……! すったもんだの末、急きょ舞台に立つことになったムカシガエルの女の子。さて、お芝居はどうなる?

 【本書のカエルについて】
英名:hochstetter's frog
和名:ホッホシュテッター・ムカシガエル
学名:Leiopelma hochstetteri
 ムカシガエル科のカエルの一種。ニュージーランドに2億年前から生息する原始的なカエル。体長は3センチほど。オタマジャクシの時期を持たず、卵から直接、子ガエルが誕生する。孵化したときは8〜12ミリ。短い尾を持つが、3、4週間で吸収される。鳴き声はかん高い。体が小さく、隠遁性が高い上に夜行性なので、人間が目にすることはほとんどない。

【あらすじ】
 クラスメイトのヘイゼルに、「うぬぼれ屋」っていわれちゃった。ひどいわ。わたしは生まれつきイボが多くて、美しいのよ。うぬぼれじゃなくて、事実なの。「カエルの王子さま」の劇で人間のお姫さま役をやるのは、このわたしに決まってる。と、思ったら、オーディションで途中から急に緊張して、フリーズしちゃった。わたしって、あがり症なのよね。
 カエルの王子さま役は、期待通り、美男子のフェルディナンドに決まった。お姫さま役は、なんと、ヘイゼルですって。オーディションに遅刻してきたくせに(わたしがまちがった時間を教えたからなんだけど……)。わたしはといえば、「代役係」にされちゃった。だれかが出られなくなったときに代わりを務める係ですって。降板者がいない限り、出番なしなのよ。それなのに、すべてのセリフを覚えなきゃならないの。最悪!
 おちこんで3日間ひきこもったあと学校に行ったら、クラスメイトのベリルが話しかけてきて、代役係はとても大切だから、ほんとうに才能があるカエルじゃないとできないものだと教えてくれた。ベリルって、見た目は地味でみにくいけど、いい子なのよね。
 週末に、みんなでかくれんぼをして遊んだ。でも、ヘイゼルには隠れる役をやらせてあげなかった。帰るとき、ヘイゼルとベリルの会話が聞こえたの。ヘイゼルが、わたしのことを意地悪だといった。そしたらベリルが、「ちょっとすねてるだけで、ほんとはやさしい子なのよ」と、フォローしてた。わたし、自分がいやになって、眠れなくなっちゃった。
 劇の練習が始まった。ヘイゼルの都合が悪かったので、わたしが代わりにお姫さま役をやったの。フェルディナンドとのシーンよ。でも、また、あがり症の発作が起きて、コチコチになっちゃった。
 またまたおちこんで悶々としていたら、ママが来てくれたけど、やさしい言葉なんてなかった。医者に行けというので、次の日、行ったわ。前々から具合が悪くて、ツボカビ症じゃないかと心配だったから、ちょうどよかった。結局、体はどこも悪くなくて、心気症と診断された。巨漢のお医者が、「何かうしろめたい思いでもあるんじゃないか?」なんていうのよ。ヤブ医者め!
 また劇の練習。今度はフェルディナンドの代わりに王子さまの役よ。ヘイゼルと女同士で見つめ合って、ばっかみたい。みんなゲラゲラ笑ってるし、やってられないわ!
 わたし、この劇をおりますって、先生に伝えた。先生は、了承したけど、ヘイゼルと仲直りしなさいっていうの。ヘイゼルは、わたしと友だちになりたいのになれなくて、悲しんでいるんですって。
 ヘイゼルに謝ることはできなかったけど、ふたりでかくれんぼをしようと誘って、先に隠れされてあげたの。ところが、ぜんぜん見つからない。おまけに雨が強くなり、ひどい嵐に。足もとの地面が崩れて、わたし、うまっちゃったの。どうなることかと思ったけど、そのうち水が流れ出して、気がついたら岩の上。助かったわ。でも、ヘイゼルがいない。ヘイゼルは、うまったままなんだわ。頭の中で、ヘイゼルの声が恐ろしげにこだまする。「あんたは助かってラッキーね。わざとわたしを閉じこめたんでしょ!」
 ヘイゼル、無事でいてちょうだい! わたしは心の底からそう願ったけれど、見つからないまま何日も過ぎた。先生は、お姫さま役をわたしにやらせるっていうのよ。せりふ、おぼえてないのに!
 本番前日のリハーサル。ラストシーンを初めてやったの。「キスしておくれ」と、王子さま役のフェルディナンド。そこへ、こんなナレーション。「お姫さまは、カエルを岩にたたきつけました」
 はあ? お姫さまがキスをして、カエルは美しい王子さまになるっていうお話じゃないの? わたしがそういうと、先生が説明した。「それは英語版よ。この劇はドイツ版だといったでしょ」。うそ! キスシーンがないなんて、話がちがうわ。〈*以下略〉

【感想・評価】※結末にふれています
 ムカシガエルの生態や、カエルにまつわる広く知られた話題を生かしたユーモアたっぷりの作品。主人公の性格づけがうまく、生き生きと描かれている。自分が美人だと思いこんでいたり、妄想癖があったりと、あまり美しいとはいえない生き物であるカエルとのミスマッチがユーモラス。うぬぼれていたかと思えば自信をなくしたり、友達をねたんで意地悪したかと思えば反省したり、素直になれなくて悩んだりといった、女の子の揺れる思いが伝わってくる。劇のあとの仲直りの場面では、女の子たちの友情がほほえましく描かれている。それをひっくり返す最後のオチも決まっている。
「カエルの王子さま」の劇をカエルが演じるという発想自体がまずおもしろいが、ドイツ版と英語圏版の内容の違いに着目した点にも、作者のセンスを感じる。ドイツ版では、お姫さまがカエルを叩きつけ、その拍子にカエルが王子さまの姿に戻るのだが、英語圏では、叩きつける代わりにキスするという展開が定着しているそうだ。ムカシガエルたちの劇でのハプニングとその収拾のつけ方は、なんとも愉快で笑いを呼ぶ。
 鳴き声がかん高いことや変態しないことなど、普通のカエルとムカシガエルの違いも、要所要所で上手にネタにしている。あらすじでは省略したが、オタマジャクシからカエルに変態する種がいることを勉強したムカシガエルたちが、変態にあこがれる様子が書かれており、ユーモラスだ。これまでの自分から新しい自分に変わろうという主人公の思いにも、うまくつながっている。
 挿絵は全部で18点。イボイボのカエルが適度にデフォルメされ、物語の雰囲気にマッチしている。

【作者紹介】
サリー・サットン(文)
 ニュージーランド、オークランド在住の作家。1973年生まれ。オークランド大学大学院でドイツ語の修士号を取得し、1年間ドイツに留学。グリム童話を原書で読んだ。作家をめざし、2006年に初めての絵本を発表。その後もコンスタントに作品を出版している。
[おもな作品]
・絵本 "Roadworks"(ブライアン・ラブロック絵)
          *2009年ニュージーランド・ポスト児童図書賞絵本部門受賞作品
・絵本 "Demolition"(ブライアン・ラブロック絵)*2013年ケイト・グリーナウェイ賞ロングリスト作品
・読み物 "Diary of a Pukeko" (デイヴ・ガンソン絵)2011年
          *邦訳『プケコの日記』(大作道子訳/文研出版)2013年
・読み物 "Miniwings" シリーズ(カーステン・リチャーズ絵)2017年

デイヴ・ガンソン(絵)
 1948年英国生まれ。1960年代にニュージーランドに移住し、1975年より、フリーの画家、デザイナー、作家として活躍。100冊以上の本(フィクション及びノンフィクション)に、生き物のイラストを描いてきた。ポスターや切手のデザインにも携わる。オークランド在住。