ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Old Hu-Hu(仮題『フフじいちゃん、どこにいるの?』)

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【基本情報】
書名:Old Hu-Hu(仮題『フフじいちゃん、どこにいるの?』)
  *2010年ニュージーランド・ポスト児童図書賞 絵本部門及び年間最優秀図書賞受賞作品
  *2010年ラッセル・クラーク賞(画家対象)候補作品

作者:カイル・ミューバーン(Kyle Mewburn)文
   レイチェル・ドリスコル(Rachel Driscoll)絵
出版元:Scholastic New Zealand
発行日:2009年
ページ数:32(本文29)
サイズ:24 × 25cm(ペーパーバック)
ISBN:978-1869439217
対象年齢:4歳ぐらいから
*ハードカバー版とマオリ語版(書名:"Huhu Koroheke")も出版されている。
*試訳(全訳)あります  

【概要】
 大好きだったおじいちゃんを亡くしたカミキリムシの男の子。悲しみの夜が明けたときに聞こえた声は……

 
 【あらすじ】※結末にふれています
 カミキリムシのフフじいちゃんは、ある夜、月に向かって飛んでいき、もどる途中で落下して死んだ。自分の年も考えず、ばかなことをしたものだ。とはいえ、むてっぽうだった若いころを思いださせる、フフじいちゃんらしい死にかただった。虫たちがおおぜい集まり、お別れをいう。でも、幼いカミキリムシのフフツぼうやだけは、なかよしだったフフじいちゃんが死んだなんて信じなかった。
「フフじいちゃん、どこにいるの?」
 夜の森をひとりさがしまわる。ほかの虫たちに、フフじいちゃんの居場所をきいてみるけれど、それぞれ話がちがって、よくわからない。フフじいちゃんは、どこにもいない。もう2度と会えないんだと悟り、泣きじゃくるフフツぼうや。と、突然、朝の光とともに、フフじいちゃんの声が、はっきりと聞こえてきた。
「フフツや、1日がはじまったぞ。きょうはなにをするんじゃね?」
 いったい、どこにいるんだろう? 耳をすませると、その声は、フフツぼうやの胸のなかから聞こえていた。フフツぼうやは笑顔になった。
 その夜、フフツぼうやは、月まで飛んでいってきた。フフじいちゃんが、よくやっていたように。

【感想・評価】
 大切な人(or生き物)の死をテーマにした絵本。カイル・ミューバーンは、病気になったペットの老猫と、亡くなったおじいさんのことを思いながら、この話を書き始めたそうだ。思うように書けずにいたところ、ニュージーランド原産のカミキリムシ、フフビートルを主人公にすることを思いつき、それから筆が進んだという。
 幼いフフツぼうやが、大好きなフフじいちゃんの死を受けとめるまでの一夜の旅は、心あたたまる物語に仕上がっている。フフじいちゃんの愛すべき無鉄砲ぶりには、冒頭から引きつけられた。悲しみの夜のあと、朝の光がさす場面で、フフじいちゃんがフフツぼうやにかける言葉は生き生きしており、まるで声が聞こえてくるようだ。胸にじんとくるクライマックスから、くすっと笑える結びへのつながりも、みごと。しみじみとした内容ながら、ユーモアとリズムが心地よい。
 レイチェル・ドリスコルによるイラストは、インパクトたっぷり。体長5センチ足らずのフフビートルが、ページいっぱいに描かれている。体は茶色い甲虫そのもので、触角もリアルだが、擬人化された顔と合わさると、ユーモラスでほのぼのした絵になる。脇役として登場するクモも、大きくリアルに描かれているが、どことなくやさしさが感じられる。
 背景は写実的で美しく、地味な色合いの中にも温かさがある。暗いページが続いたあとの、光あふれる朝の森の絵は、特に印象的だ。また、まるで思い出のアルバムのようなセピア色のページには、若いころのフフじいちゃんの無鉄砲ぶりを物語る絵がならんでいて、しみじみと味わえる。文、絵、デザイン、3拍子そろったからこそ選ばれた、ニュージーランドの2010年最優秀児童図書。

【フフビートルについて】
 フフビートル(huhu beetle)は、ニュージーランド固有のカミキリムシの一種。成虫は体長5センチほど。長い触覚を持つ茶色い甲虫である。フフはもともとマオリ語で、甲虫の幼虫をさしていた。

【作者紹介】
カイル・ミューバーン(文)
 1963年オーストラリア生まれ。20代でニュージーランドに移り住み、現在は南島のオタゴ地方在住。学習教材執筆で修行を積んだ後、2005年のジョイ・カウリー賞(未発表の絵本原稿が対象。受賞作は出版が約束される)受賞をきっかけに出版された "Kiss! Kiss! Yuck! Yuck!"(Ali Teo and John O'Reilly 絵)で注目を浴びる。絵本と小学生向け読み物を中心に、作品多数。2010年出版の絵本 "Hill and Hole"(Vasanti Unka 絵)は、2011年ニュージーランド・ポスト児童図書賞絵本部門及びラッセル・クラーク賞候補作に選ばれた。邦訳に『ねずみのへやもありません』(フレヤ・ブラックウッド絵/角田光代訳/岩崎書店)がある。

レイチェル・ドリスコル(絵)
 1981年、ウェリントン近郊のロウアーハットに生まれる。2007年に、絵本 "The Mouse that Danced"(Margaret Beames 文)で出版界にデビュー。2作目の "Old Hu-Hu" が高く評価された。ウェリントン在住。