ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Cook's Cook --The Cook Who Cooked for Captain Cook (仮題『クック船長のコックさん』

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【基本情報】
書名:Cook's Cook --The Cook Who Cooked for Captain Cook
   (仮題『クック船長のコックさん』)
     *2019年ニュージーランド児童書及びヤングアダルト小説賞
                    〈ラッセル・クラーク挿絵賞〉候補作品

作者:ガヴィン・ビショップ(Gavin Bishop)文・絵
出版社:Gecko Press
出版年月:2018年9月
ISBN:9781776572045
サイズ:24.5 x 29.5 cm(ハードバック)
ページ数:40
読者対象:小学生から

【概要】
 英国の探検家ジェイムズ・クックがおこなった3回にわたる南太平洋遠征の1回目の旅を紹介するノンフィクション絵本。語り手は、船の料理人だったジョン・トンプソン。

【ジェイムズ・クックの第1回南太平洋遠征について】
 ジェイムズ・クック船長率いる一行は、1768年8月に帆船エンデバー号で英国を出発。西回りで南太平洋へ向かい、タヒチで金星の観測をおこなう。その後、南西に進み、ヨーロッパ人として初めてニュージーランドの地を踏む。オーストラリア東海岸にも上陸し、インド洋を通ってアフリカ経由で帰国。未知の世界を調査し、日誌やスケッチで記録を残し、動植物を採集しながらの3年近くにわたる長い旅だった。後半に、マラリアと赤痢で多くの隊員が命を落とした。

【本書の内容】
 語り手のジョン・トンプソンは、片手(右手が義手)の料理人。積み荷の保存食と現地で手に入れた動植物を使って食事を作り続けた。テキストは、トンプソンの視点で航海を追う本文のほか、囲み記事、イラストの吹き出し、航海中の食事のレシピから成る。レシピには、サメのステーキ、エイのスープ、アホウドリやウミガメや犬の料理など、あっと驚くものが並ぶ。
 イラストは水彩とアクリル絵具で描かれ、そのタッチと色使いはガヴィン・ビショップ独特のものだ。船の断面図や積まれた保存食一覧、人や動物、風景など、さまざまなアイテムが、各見開きページに工夫を凝らして配置されている。

【感想・評価】※結末にふれています。
 類書として思いつくのは、英国の絵本『シャクルトンの大漂流』(ウィリアム・グリル文・絵/千葉茂樹訳/岩波書店)だ。入念なリサーチをもとに、探検隊の航海を追い、テキストと親しみやすいイラストで情報を伝える絵本という共通のコンセプトで作られている。本書 Cook's Cookのほうがくだけていて、吹き出しを多用していることもあり、マンガチックでユーモラスだ。独特なのは、なんといっても実在した料理人ジョン・トンプソンを語り手として、珍しい食材を使ったレシピを載せている点である。この人物の記録はごくわずかしか残っていないため、彼の人格は作者ビショップが作り上げたものだ。発見した土地に次々と命名していくクック船長を横目に、トンプソンも自分の名前にちなんだ地名を考えるというフィクションを足すことで、物語を読む楽しさも味わわせてくれる。旅の後半に感染症で亡くなってカモメに姿を変えたトンプソンが、最後のページで自分の料理に命名する場面がとてもほほえましく、愉快だ。爆笑を誘うのではなくクスッと笑えるユーモアがニュージーランドらしい。楽しく歴史を学べるノンフィクション絵本として、ニュージーランドの家庭や教育機関で広く読まれることだろう。

【作者紹介】
ガヴィン・ビショップ:1946年、南島のインバーカーギルで生まれる。大学卒業後、美術教師として高校に勤務しながら、イラストレーター、絵本作家として活躍。勤続30年で退職しフリーになる。NZの児童文学賞で受賞歴多数。2018年には、ノンフィクション絵本 Aotearoa: The New Zealand Story(仮題『アオテアロア(ニュージーランド)のむかし・いま・みらい』)でNZ児童書及びYA小説賞のマーガレット・マーヒー年間最優秀図書賞(大賞)を受賞。1984年に野間国際絵本原画コンクールで大賞を受賞し、来日してスピーチをおこなった。クライストチャーチ郊外在住。

〈邦訳作品〉
★絵本
『こうさぎのうみ』(大和和紀訳/講談社)
『きつねおくさまのごけっこん』(グリム兄弟作/江國香織訳/講談社)

★読み物のイラスト
『ヘビとトカゲ きょうからともだち』
        (ジョイ・カウリー作/もりうちすみこ訳/アリス館)

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