ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Jack and Charlie: Boys of the Bush(仮題『ぼくたちのブッシュぐらし ニュージーランドの小さな町から』)

f:id:nzbook:20171111161701j:plain

【基本情報】
書名:Jack and Charlie: Boys of the Bush
  (仮題『ぼくたちのブッシュぐらし ニュージーランドの小さな町から』)
*2017年エルシー・ロック・ノンフィクション賞(NZ児童書及びYA小説賞ノンフィクション部門)受賞作品

文:Jack Marcotte(ジャック・マーコット)
  Josh James Marcotte(ジョシュ・ジェイムズ・マーコット)
写真:Sam Stuchbury(サム・スタッチベリー)

出版社:Penguin Random House (Puffin)
出版年月:2016年2月
ページ数:176(文は70ページほど)
サイズ:24×20 センチ(ペーパーバック)
ISBN: 9780143574149
読者対象:小学校中学年から
*試訳(部分訳)あります

【概要】
ニュージーランド南島西海岸の小さな町ロスに住むマーコット一家。その自然に根ざした暮らしと西海岸地方の魅力を、長男のジャック(9歳)が語る。写真満載のノンフィクション。

 写真の一部は以下のサイトで公開されている。
http://motionsickness.co.nz/blog/jack-charlie-of-the-bush/
(Motion Sickness ウェブサイト内ブログのページ)

【章ごとの内容】

(1).こんなところに住んでるよ(P11-P60)
・西海岸地方と、人口300人の町ロスの紹介
・家族紹介(父:狩人でアドベンチャーガイド/母:子育てで忙しい主婦/弟チャーリー:
 7歳。ジャックと行動をともにする/弟ソニージム:1歳/犬2匹とネコ1匹)
・日常生活(薪割り、畑仕事、ニワトリの世話、料理など)
・学校生活
・手作りの弓矢で遊ぶ

(2).森の中へ!(P61-94)
・西海岸はグリーンストーン(翡翠)の産地
・金鉱の歴史
・林業の歴史
・動物、鳥、魚
・ポッサム猟について
・父さんと野外活動。サバイバル術を学ぶ

(3).キャンプとラフティング(P95-120)
ときどき父さんとキャンプに行き、野外生活をする
(釣りやシカ狩り/ゴムボートで急流下り/テントで寝起き)

(4).狩り(P121-152)
・森でシカ狩り
・近所でウサギ狩り
・冬はラグーンで鳥撃ち
*それぞれの狩りの詳細と獲物の処理や料理について。狩りの倫理について(狩
りをするのは父さんで、ジャックとチャーリーは手伝い)

(5).釣り(P153-171)
・春はホワイトベイト(シラス)釣りで西海岸じゅうが熱狂
・カハワイやマスを釣る
・ウナギ釣り
 *それぞれの釣りの詳細と釣った魚の処理や料理について。釣りの倫理について。

【感想・評価】
 同様のコンセプトと形式を持つ既刊書に、Ben and Mark :Boys of the High Country (Random House NZ/2009)がある。読み物というより写真集として楽しく眺めたので、本書 Jack and Charlie もそのイメージで開いたのだが、思いのほか文章に引き込まれた。Ben and Mark は大人の作家が書いたのに対して、本書は少年ジャックによる子ども目線の語りだからだろうか、とても親しみやすく、読んでいてわくわくした。
 西海岸は、人口の少ないニュージーランドの中でも特に人口密度が低い地域だ。雨も多いし、地味なイメージがあったが、ジャックの語りから、手つかずの自然が残るこの土地独特の魅力が伝わってくる。風土や歴史もよくわかり、訪れてみたくなる。野外活動を満喫する少年たちには、愛おしさや頼もしさを感じる。子どもの読者には、デジタルと無縁の世界の魅力を、単純に楽しんでもらいたい。自然に根ざした暮らしを送る子どもたちの紹介は、ニュージーランド国内でも貴重であり、本書は教育関係者にも歓迎されているようだ。
 狩りのくだりでは、動物を殺すことに残酷さを感じなくもない。しかし、狩りは合法的に行われているものだ。絶滅の危機に瀕している固有種の鳥たちを守るために外来種を駆除するという、ニュージーランド独特の事情もある。また、ジャックとチャーリーは、狩りの倫理や安全の確保について、父親からきちんと教わっている。写真については、死んだ動物を含むものが2点(ポッサムとカモ)あるが、クローズアップはされてない。
 写真はほかに、西海岸地方の雄大な風景、ジャックたちの野外活動、学校や家庭での様子など130点以上。どの写真もすばらしく、中でも少年たちの笑顔が最高だ。
 父のジョシュは、動画サイトやテレビの野外アドベンチャー番組で顔が知られている。NZ児童書及びYA小説賞授賞式には、ジャック、チャーリー、父の3人が出席し、父が受賞スピーチをおこなった。

【作者紹介】
ジャック・マーコット(文)
 ニュージーランド南島西海岸の小さな町ロスで暮らす少年。本書刊行当時9歳。家族は、父、母、2人の弟(チャーリーとソニージム)。

ジョシュ・ジェイムズ・マーコット(文)
 ジャックの父。ニュージーランド北島の都市ネーピア生まれ。少年時代から、自転車モトクロス、釣り、ウサギ狩りなどに親しむ。林業や羊の毛刈りに関わる仕事をしたのち、南島西海岸の自然に魅せられ、移住する。現在はおもに、狩猟、釣り、アドベンチャーガイドで暮らしを立てている。
公式ウェブサイト "The Kiwi Bushman" https://thekiwibushman.co.nz

サム・スタッチベリー(写真)
 オタゴ大学でデザインとマーケティングを学び、在学中の2013年に広告会社 Motion Sickness を設立。代表として、精力的に活動している。2017年10月にPenguin Random Houseから出版された Hideaways :Where New Zealanders Escape の写真も手がけた。オークランド在住。