ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Violet Mackerel シリーズ第1〜8巻まとめ

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「バイオレット・マケレル」シリーズ
アナ・ブランフォード作/サラ・デイヴィス絵
Violet Mackerel series, Walker Books Australia

【シリーズ概要】
オーストラリアに住む想像力豊かな女の子の、愉快で心温まるエピソード。
今のところ8巻まで。各巻読み切り。語りは三人称一視点。

【各巻の概要】
第1巻 Violet Mackerel's Brilliant Plot(仮題『バイオレット・マケレルのとびきりいかした作戦』)
 朝市で売っている青い鳥の置き物がほしくてたまらなくなったバイオレット。手に入れるために、とびきりいかした作戦を実行しますが……。オーストラリアに住む想像力豊かな女の子の、愉快で心温まるエピソード。
★バイオレットの法則:小さくてすてきなものを発見したら、その時に考えていたことは、とても尊(とうと)いことだ(ちっちゃなもの発見の法則)

第2巻 Violet Mackerel's Remarkable Recovery(仮題『バイオレット・マケレルのめざましい回復ぶり』)
 扁桃腺の手術をしたバイオレット。オペラ歌手みたいな声の持ち主になることを楽しみに、自宅療養中。でも、手術の前に待合室で仲良くなったおばあさんのことが恋しくてたまらない。連絡先がわからないけど、どうしても会いたい!
★バイオレットの法則:困っている人に小さなものをプレゼントすると、その人の助けになる(ちっちゃなものプレゼントの法則)

第3巻 Violet Mackerel's Natural Habitat(仮題『バイオレット・マケレルと本来の生息地』)
 庭でつかまえたテントウムシが死んでしまって、悲しむバイオレット。そのとき、お姉ちゃんのニコラは、理科の自由研究ができなくて途方に暮れていました。ふたりは、テントウムシの一生をビーズで製作し、大切なことを学びます。
★バイオレットの法則:小さなものに親切にすると、恩返ししてもらえることがある(ちっちゃなものを助ける法則)

第4巻 Violet Mackerel's Personal Space(仮題『バイオレット・マケレルと自分だけの空間』)
 いいニュース:ママとビンセントが結婚する。 悪いニュース:この家から引っ越す。
 バイオレットの兄ディランにとっては、どちらも悪いニュースだったようで、庭にテントを張ってこもってしまいます。はたして結婚式は無事に行われるのでしょうか? 住み慣れた家との別れを惜しむバイオレットの気持ちにも注目。
★バイオレットの法則:小さな何かを残していけば、その場所には自分の一部も残る(ちっちゃなものを残す法則)

第5巻 Violet Mackerel's Possible Friend(仮題『バイオレット・マケレルの友だち候補』)
 新居に越したマケレル一家。バイオレットは、隣の家に住む女の子ローズと仲良しになります。ローズの部屋で、天蓋つきベッドやドールハウスに胸を躍らせますが、一方で不安も感じていました。自分はみすぼらしい女の子だと思われているかもしれない。ローズはほんとうの友だちになってくれるかな?
★バイオレットの法則:小さくてすてきなものを交換した者同士は、いい友だちになれる(ちっちゃなもの交換の法則)

第6巻 Violet Mackerel's Pocket Protest(仮題『バイオレット・マケレルの小さな反対運動』)
 公園のオークの木が伐採されると知り、仲良しのローズと一緒に反対運動を始めたバイオレット。小さなカードを作ったり、メッセージを書いてドングリの中に忍ばせたり、ちょっとだけ署名を集めたり。2人のささやかな反対運動に、だれか気づいてくれるかな?
★バイオレットの法則:小さなメッセージを見逃さない人は、小さなものを大切に思っている(ちっちゃなものを見逃さない法則)

第7巻 Violet Mackerel's Helpful Suggestion(仮題『バイオレット・マケレルのすぐれたアイディア』)
 親友のローズが、お父さんの出張に同行して6週間も日本にいってしまうことに。自分は忘れられてしまうのではないかと心配するバイオレットは、★ちっちゃなものを送りあう法則★を思いつきました。
★バイオレットの法則:離ればなれになっても、小さなものを送りあえば、心の距離を縮められる(ちっちゃなものを送りあう法則)

第8巻 Violet Mackerel's Formal Occasion(仮題『バイオレット・マケレルとフォーマルなお茶会』)
 公園で、銀のロケットを発掘したバイオレットとローズ。うれしい反面、落とし主のことを考えると複雑な気持ちです。一方、バイオレットのママは、納品するはずだった手編みの品をなくして意気消沈。そんなママを励まそうと、バイオレットが思いついたのは?
★バイオレットの法則:大切なものをなくすと悲しいけれど、拾われた先で、もっと大切にしてもらえることもある(ちっちゃなものをなくしたときの法則)

【シリーズ全体の感想・評価】
 本シリーズを通して読み、ほのぼのとした温かな雰囲気と、よく練られた楽しいストーリーを堪能した。各巻で描かれているのは、主人公バイオレットの日常生活で起こるちょっとした出来事。ハプニングやユーモアを盛りこみながらも、ドタバタしすぎない落ち着いた雰囲気が貫かれている。バイオレットによりそった三人称の語りは、ほどよい距離感で心地よくひびく。
 シリーズとしてのめりはりも高く評価できる。ほのぼのとした愉快なエピソードがほとんどだが、4巻では母の再婚で悩む兄と、住み慣れた家から引っ越すことを悲しむバイオレットの、ちょっと寂しげな姿も描かれる。5巻ではバイオレットの内気な面がクローズアップされる。3巻では生き物の命について考え、6巻では木の伐採というちょっとした社会問題にふれている。古いエピソードを新しいエピソードにうまく絡めていることや、バイオレットとお年寄りのふれあいを上手に描いている点も、シリーズ成功の要因といえるだろう。巻数が増えても冗漫にならないところに、アナ・ブランフォードの確かな筆力を感じる。
 バイオレットの両親が離婚していることや、母親とその再婚相手ビンセントが安定した仕事についていない(ビンセントは第7巻で就職する)ことを大きく取り上げるわけではなく、ましてや問題視するなどということはない。描かれているのは、バイオレットから見た大好きな家族のありのままの姿だ。
 小さな世界で生きているように見えるバイオレットだが、お金やハイテクに頼らない生き方をしており、私たちが忘れかけていることや見失ってしまったものをたくさん知っている。身近なものを利用して手作りすることや、ノートにアイディアやスケッチを書くというアナログな作業の楽しさも感じさせてくれる。欲張らず、身の丈に合ったことを楽しむバイオレットに、私はすっかり魅了されてしまった。
 テーマ性やメッセージ性を重視する作品も大切だが、本シリーズのように、純粋にお話を楽しむタイプの作品もなおざりにしてはならないと思う。子どもの心をゆったりと育んでいくフィクションの力は、計り知れないのだ。ひとりで読書を楽しみ始める年齢の子どもたちにとっては、必要不可欠といえるだろう。
 本シリーズは、オーストラリアのみならず、イギリス、アメリカ、フランス、トルコでも出版されている(ニュージーランドでは、オリジナルであるオーストラリア版が流通)。アメリカでは、1〜4巻をセットにした特製ボックス入りも作られた。ロングセラーになり得る良質なこのシリーズを、日本の子どもたちにぜひ届けたい。

【おもな登場人物】
バイオレット・マケレル………小学校低学年の女の子
ニコラ……………………………バイオレットの姉。アクセサリーを作るのが得意。
ディラン…………………………バイオレットの兄。バイオリンが得意。
ママ………………………………バイオレットの母。編み物が得意。
ビンセント………………………ママの再婚相手。元バックパッカー。

ローズ……………………………隣の家に住む女の子。バイオレットの親友(5巻〜)
アイリス・マクドナルド………病院の待合室で知り合った元助産師の女性(2巻、8巻)
アルバート・トリベリ…………元ホテル経営者。公園のオークの木を愛する(6巻)
ベラとマックス…………………ローズのおばあちゃんとおじいちゃん(8巻)
 
【その他の情報】
・バイオレットの年齢は特定できないが、小学校低学年と思われる。
・兄ディランは、第1巻で12歳(almost teenager)。
・姉ニコラは、第1巻で teenager と書かれており、14〜15歳と思われる。
・母の仕事は編み物をすること。作った品物は、朝市で売るほか、いくつかのお店に納品している。
・ビンセントは、第7巻で豆の量り売りの店に就職。それまでは定職に就いていなかった。
・舞台はオーストラリアの平均的な町。具体的な地名はない。
・バイオレットとローズは別々の学校に通っている

【関連書】
How To Make Small Things With Violet Mackerel(仮題『バイオレット・マケレルといっしょに、ちっちゃなものを手作りしよう』アナ・ブランフォード作)が、2013年11月に出版された。物語に出てきた手作り品の作り方が掲載されている。

【各巻の詳しい情報へのリンク】

第1巻(作者紹介含む)
第2巻
第3巻
第4巻
第5巻
第6巻
第7巻

第8巻