ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Violet Mackerel シリーズ第8巻 Violet Mackerel's Formal Occasion(仮題『バイオレット・マケレルとフォーマルなお茶会』

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【基本情報】
書名:Violet Mackerel's Formal OccasionViolet Mackerel シリーズ第8巻)
   仮題『バイオレット・マケレルとフォーマルなお茶会』
作者:アナ・ブランフォード (Anna Branford) 文/サラ・デイヴィス (Sarah Davis) 絵

Walker Books Australia 2015年3月 ハードカバー ISBN: 978-1925081091
ページ数:112(本文102/挿し絵多数) サイズ:18.5×13.5×1.4 cm 
読者対象:小学校低学年から


【概要】
 公園で、銀のロケットを発掘したバイオレットとローズ。うれしい反面、落とし主のことを考えると複雑な気持ちです。一方、バイオレットのママは、納品するはずだった手編みの品をなくして意気消沈。そんなママを励まそうと、バイオレットが思いついたことは?

 
【あらすじ】
 親友のローズと一緒に、公園の地面を小枝で掘っていたバイオレット。なんと、銀のロケットを発掘しました。持ち帰って磨くとピカピカになり、バイオレットもローズも大興奮。毎日交替で身につけることにしました。でも、これをなくした人は悲しんでいるかもしれないと思うと、複雑な気持ちです。
 翌日ふたりは、外国から遊びにきているローズのおじいちゃんおばあちゃんと一緒に、高級なカフェでお茶をしました。バイオレットは、フォーマルな場所は初めてで緊張しましたが、三段重ねのケーキスタンドや、色とりどりのマカロンに魅了され、楽しく過ごしました。バイオレットとローズがロケットのことを教えると、おじいちゃんとおばあちゃんは、若かった頃の思い出話をしてくれました。旅行先で指輪をなくし、どんなにさがしても見つからなくて、それはそれは悲しかった。そこで、指輪を拾って幸せになった人の話をたくさん考えた。そうしたら気が紛れたそうです。
 お茶のあと、バイオレットとローズは、ロケットの落とし主宛てにメッセージを書いて、発掘現場に置きました。おじいちゃんの電話番号を書き、濡れないようにケースに入れて。
 バイオレットのママは、編み物をするのが仕事です。その日、電車で納品にいく途中、どっさり作った手編みの小物を、かごごとなくしてしまいました。途中の駅で、赤ちゃん連れの女性に手を貸してホームに降り、車内に戻ろうとしたら、目の前でドアが閉まってしまったのです。鉄道会社に問い合わせても、見つかりません。品物は、大急ぎで作り直さなければなりません。ママはこれまでにないほど意気消沈しています。
 ママを励ましたいと考えるバイオレットに、ローズが提案しました。おじいちゃんとおばあちゃんみたいに、品物を拾って幸せになった人の話を考えたらどうかしら? ふたりはさっそくお話を作り、きれいに書いてイラストもつけ、ママのベッドにこっそり入れました。こんなお話です。
「灰色の家で暮らす孤独なおじいさんがいました。家族といえば、ネコ1匹です。ネコはある日、手編みの小物が入ったかごを見つけ、家に持ち帰りました。色とりどりの小物を見たおじいさんは笑顔を取りもどし、それからは、ネコと一緒にいつまでも幸せに暮らしました」
 ママは喜んでくれましたが、またすぐに悲しそうな顔に戻ってしまいました。
 でも、簡単にあきらめないのがバイオレットです。その後も毎日、ローズとふたりでママにお話を贈り続けました。それだけではありません。ママのためのサプライズパーティーを企画します。この前行った高級カフェをお手本に、フォーマルなお茶会をするのです。場所は自宅のキッチン、時は今度の日曜日(ママが再度納品に行く日)。ママ以外の家族とローズに協力してもらって、準備を整えます。当日、ゲストであるローズのおじいちゃんおばあちゃんと、バイオレットの友だちで元助産師のアイリスさん(第2巻参照)も、おいしそうなケーキを手に、フォーマルな服装で来てくれました。バイオレットたちが用意したマフィンやサンドイッチ、花々もあって、テーブルにはすきまがないほど。
 ママとビンセント(ママの再婚相手)が、納品から帰ってきました。「サプライズ!」みんなで叫ぶと、ママはほんとうにびっくりして、そのあと目を輝かせました。ママとビンセントもフォーマルな服に着替えて、お茶会の始まりです。おしゃべりがはずむ中、ママが、バイオレットとローズに、手編みの小物をくれました。お話に励まされ、全部編み直して納品することができたので、お礼だそうです。バイオレットは魚、ローズは蝶をもらいました。するとアイリスさんが、今朝、病院に花を届けにいったときに、同じものを見たといいます。〈以下略〉

【補足】
・地中から物を発掘するというのは、第1巻でバイオレットが考古学に興味を持ったこととつながっている。あのときは庭を掘って大失敗したけれど、その後も考古学に関心を持ち続けていたという設定。
・姉のニコラは、ロケットを磨くポリッシュを貸してくれたり、バイオレットの髪をセットしてくれたりと、得意分野を生かして活躍している。
・銀のロケットは、バイオレットとローズが交替で身につけるが、ママにも1日貸してあげた(ママを元気づけたいという純粋な気持ちから)。

・今回の法則:★ちっちゃなものをなくしたときの法則★〈大切なものをなくすと悲しいけれど、拾われた先で、もっと大切にしてもらえることもある〉
・カフェで初めて見た三段重ねのケーキスタンドを、自宅で再現する工夫が楽しい。
・ママと一緒に帰宅したビンセントがマカロンを買ってきてくれたことも、前半とつながるほほえましいエピソード。


【感想・評価】※結末にふれています。
 日常生活の中で起こる出来事を描いた読み物のシリーズ第8巻。さまざまなエピソードが上手に織りこまれ、楽しく温かい物語になっている。
 ママがなくした品物の行方については、病院に寄付をするような人なら、遺失物として届けてくれてもよかったのでは?という気がしないでもない。しかし、最終的に子どもたちに喜ばれたという事実と、「拾われた先でもっと大切にしてもらえる(ends up with someone who will love it even more.)」という法則が証明されたことを、バイオレットとローズが純粋に喜ぶことで、温かなハッピーエンドが成立している。
 1〜7巻同様、現代の話でありながら、ハイテク機器はほとんど登場せず、身近な物の大切さや手作りのよさを思いださせてくれる。主人公バイオレットの描き方にもぶれがなく、初めての場所へ行くときの不安な気持ちや、アイディアを思いついてはりきる様子など、子どもらしい魅力にあふれている。
 第2巻でバイオレットと友達になったアイリスさんが自然な形で再登場し、役割を果てしていることも、うれしい。バイオレットが招待状で伝えたとおり、フォーマルな服でお茶会にやってきたアイリスさんが、「この服装で大丈夫かしら?」と、バイオレットの耳元でささやく場面は、なんともほほえましくて、印象に残った。お年寄りとのふれあいを上手に盛りこんでいることは、このシリーズの成功の一因といえるだろう。今のところ本書が最新刊だが、今後も継続して出版されることを願う。

 

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