ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Tiny Miss Dott and Her Dotty Umbrella (仮題『ドットおばさんのかさ』)

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【基本情報】
書名:Tiny Miss Dott and Her Dotty Umbrella(仮題『ドットおばさんの かさ』)
   *2008年ジョイ・カウリー賞(未発表の絵本原稿が対象)受賞作品
   *2010年ラッセル・クラーク賞候補作品

作者:ミシェル・オズメント (Michelle Osment)/文
   サラ・ネリシエ・アンダーソン (Sarah Nelisiwe Anderson)/絵
出版元:Scholastic New Zealand
発行年月: 2009年8月
ページ数:32(本文29)
サイズ:21.5×26.5cm(ペーパーバック)
ISBN:978-1869438982
対象年齢:4歳ぐらいから
*試訳(全訳)あります

【概要】
 リサイクルショップのドアに立てかけられた、ドットおばさんのかさ。お客さんが、だまって借りていきました。次のお店では、別のお客さんが借りていきました……。旅するかさは、ドットおばさんのもとに戻れるでしょうか?

 
【あらすじ】
 ドットおばさんは、リサイクルショップで働いています。今日は雨がふるかもしれないので、かさをもって出勤しました。ドアの横に立てかけます。
 お客のマーティンくんがシャツを買って外に出ると、雨がふっていました。マーティンくんは、すぐに返しにくるつもりで、ドットおばさんのかさを、だまって借りていきました。そして楽器屋さんに入り、ギターをひきはじめました。
 楽器屋さんにいたエミリンちゃん。すぐに返しにくるつもりで、マーティンくんがおいたドットおばさんのかさを、だまって借りていきました。そして、美容院に入りました。
 美容院にいたティモシーぼうやとパパ。すぐに返しにくるつもりで、エミリンちゃんがおいたドットおばさんのかさを、だまって借りていきました。そして、リサイクルショップにいきました。かさは、ドアの横に立てかけます。
〈以下略〉

【感想・評価】※結末にふれています
 置き忘れたり盗まれたりすることが多い身近な道具「かさ」をモチーフにした楽しいお話。ドットおばさんがリサイクルショップで働いている間に、かさが勝手に持ち出され、楽器屋さんと美容院へ旅をして戻ってくるというものだ。
 ドットおばさんは、白髪をひっつめにした小柄なおばあさん。用心深くかさを持って出勤する姿はいかにもお年寄りらしいが、後半、やんちゃなティモシーぼうやとダンスを踊るという意外な一面を見せて楽しませてくれる。よく見ると、水玉もようの服を着たドットおばさんは、なかなかおしゃれ。怒ったりあわてたりすることはなく、多くを語ることもない。そんなドットおばさんのゆったりした雰囲気が心地よい。自分のかさが使われたことを知らないドットおばさんの最後のせりふは、みごとにストンと落ちていて、笑わせると同時に、ほっとさせてくれる。
 絵も多くを語っている。マーティンくん、エミリンちゃん、ティモシーぼうやの3人は、こだわりのファッションに身を固めている。それだけに、雨にふられて取り乱す様子が笑いを誘う。お話のユーモアを、イラストレーターのセンスで絵にすることのおもしろさを感じた。リアリズムの範囲内でのびのびと描かれた絵が愉快だ。
 教訓などなく、単純に楽しむタイプの絵本。おはなし会などで、大勢で盛り上がれたらいいなと思う。特に梅雨時におすすめだ。

【作者紹介】
ミシェル・オズメント (文)
 1970年、ニュージーランド北島西海岸のニュープリマスで生まれ、現在も同地で夫と子どもとともに暮らしている。2003年に出版された学習教材 "28 Modern Poems for Juniors" が作家デビュー作。2004年より、自身が立ち上げた出版社 Little Friends Publishing から絵本を発表している。代表作は、クイナの一種プケコをモチーフにした"Perky the Pukeko" シリーズ。2004年から2012年までに5作品が出版されている。

サラ・ネリシエ・アンダーソン (絵)
 1983年ロンドンに生まれ、ニュージーランド北島のコロマンデル地方で育つ。マッセイ大学でデザインを学んだ後、フリーのイラストレーターとして、児童書、学習教材、雑誌、広告等、幅広い分野で活躍中。初めての絵本作品 "The Were-Nana"(Melinda Szymanik 文)は、2009年ニュージーランド・ポスト児童図書賞で「子どもたちが選んだ本賞」を受賞した。