ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Manukura: The White Kiwi(仮題『マヌクラ まっしろなキーウィ』)

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【基本情報】
書名:Manukura: The White Kiwi(仮題『マヌクラ まっしろなキーウィ』)
   *2013年 Storylines 優良図書

文:ジョイ・カウリー(Joy Cowley)
絵:ブルース・ポッター(Bruce Potter)
出版社:Random House New Zealand
出版年月:2012年10月
ページ数:32ページ           
サイズ:28.5 x 21 cm
ISBN: 978-1869798383          
読者対象:5歳ぐらいから
 *試訳(全訳)あります

【概要】
 2011年5月に生まれた真っ白なキーウィを紹介するノンフィクション絵本。ニュージーランド児童文学を代表する作家ジョイ・カウリーが、子どもたちへのメッセージをこめて書き上げた。

 
【あらすじ】※結末にふれています
 若いメスのキーウィ、マヌクラが、一人称で語ります。
 みなさん、こんにちは。わたしはキーウィのマヌクラです。野生生物保護区でくらしています。マオリ語で「えらい人」という意味のりっぱな名まえをつけてもらい、宝ものとしてだいじにされています。それは、どうしてでしょう? これからお話しします。
 まずは、キーウィの歴史をふりかえりましょう。大むかしのニュージーランドには、たくさんのキーウィがいました。でも、人間や、人間がもちこんだ動物のせいで数がへり、絶滅が心配されるようになりました。
 国立野生生物保護区では、キーウィを絶滅から救うための保護活動が行われています。保護区の森で産卵された卵は、敷地内にある人工飼育場の孵化器に移されます。
 わたしも人工孵化器の中でかえりました。そして、人々をあっとおどろかせました。羽毛が、雪のように真っ白だったからです。キーウィの羽毛はふつう茶色です。少しだけ白がまじることもありますが、全身が真っ白なキーウィは、たいへんめずらしいのです。人々は、そんなわたしを宝ものだと見なしました。わたしは、世界的にも注目されました。
 でも、わたしのなかよしの友だちは、ごくふつうの茶色いキーウィのポティキです。ポティキだって、かけがえのないひとつの命であることに変わりはありません。
 読者のみなさん、あなたもそうですよ。ひとりひとりが、かけがえのない存在なのです。白いキーウィのマヌクラは、そのことを伝えるために生まれてきました。

【感想・評価】
 ニュージーランドの国鳥キーウィは、国民に愛され、親しまれています。絶滅危惧種のため、保護活動も熱心に行われています。2011年5月、プカハ・マウント・ブルース国立野生生物保護区で純白のキーウィが生まれたことは、国際的なニュースになりました。アルビノではなく、キタタテジマキーウィの中に稀に見られる白い個体だそうです。人間の飼育下で産まれたキーウィでは、おそらく初めてだといわれています(同年12月に、同じ保護区でもう1羽、白いキーウィが生まれました)。
 この絵本では、白いキーウィの誕生に関する必要最小限の情報が、やさしい言葉で伝えられています。マヌクラの一人称の語りがとてもやさしく、静かで味わいのあるノンフィクション絵本になっています。マヌクラを通して、キーウィの歴史が短くもわかりやすく説明されている点や、基本的な情報を正確に伝えてくれる写実的な絵も、高く評価できます。そして何より、子どもたちへの普遍的なメッセージを添えているところに、大きな魅力を感じました。愛らしい鳥キーウィを日本の子どもたちに知ってもらうのにぴったりの内容ではないでしょうか。
 巻末には、キーウィについての補足説明もあります。邦訳版では、見返しなど巻頭ページに基本的な情報を追加すると、よりわかりやすくなると思います。

【キーウィについて】
 キーウィは、ニュージーランドだけに生息する飛べない鳥。絶滅危惧種。大きさはニワトリほどで、茶色い羽毛と長いくちばしが特徴。森にすみ、夜行性であるため、人の目に触れることはほとんどないが、動物園などの飼育施設で見ることができる。「キーウィ」という名前は、鳴き声にちなんでマオリの人々が呼んでいたもの(フルーツのキーウィは、鳥のキーウィに似ていることから名づけられた)。ニュージーランドの国鳥として愛され、熱心な保護活動が行われている。

【作者紹介】
ジョイ・カウリー(文)
 1936年生まれ。ニュージーランドの児童図書賞で受賞歴多数。学習教材の執筆も長年に渡って続けているほか、創作講座の講師として訪米したり、2012年フランクフルト・ブックフェアで講演したりと、国際的に活躍。2016年8月にオークランドで開催される国際児童図書評議会(IBBY)の世界大会で講演をする予定。2016年国際アンデルセン賞作家賞候補者。アストリッド・リンドグレーン記念文学賞には、2006年以来毎年ノミネートされている。邦訳された絵本に『大砲のなかのアヒル』『せんたくおばさん』『パンサーカメレオン』などがある。

ブルース・ポッター(絵)
 ニュージーランド北島在住。絵本の挿絵画家として定評があり、作品数は100冊に及ぶ。子ども向けノンフィクション "New Zealand Hall of Fame: 50 Remarkable Kiwis" (Maria Gill 文)が、2012年ニュージーランド・ポスト児童図書賞ノンフィクション部門の候補作に選ばれた。他に代表作として、ニュージーランド作家の短編を集めた "Out of the Deep"(Tessa Duder、Lorraine Orman 編)、映画化されたマオリ文学 "The Whale Rider"(『クジラの島の少女』ウティ・イヒマエラ作)の絵本版などがある。