ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★The Road to Ratenburg(仮題『チュートピアへの道』)

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【基本情報】
書名:The Road to Ratenburg(仮題『チュートピアへの道』)
作者:ジョイ・カウリー (Joy Cowley) 文
   ガヴィン・ビショップ(Gavin Bishop)挿し絵
出版社:Gecko Press (New Zealand)
出版年月:2016年3月
ページ数:200(本文192ページ/挿し絵約30点)
ISBN: 978-1776570751(ペーパーバック)
読者対象:小学校中学年から
★Gecko Pressウェブサイト内作品紹介ページ
http://www.geckopress.co.nz/ProductDetail.aspx?categoryid=149&productid=469

【概要】
 すみかをなくしたネズミ一家が、ネズミの楽園チュートピアをめざして旅に出る。天敵をかわし、湖や底なし沼をわたり、険しい山を越える命がけの旅の果てにたどり着いたところは……? 2016年3月に発表されたばかりの新作!

 
【あらすじ】
 人間の住むマンションの地下で暮らしていたネズミ一家。ある日突然マンションが解体されて、引っ越さなければならなくなった。母さんネズミは、あこがれの地「チュートピア」に行きたいという。そこはネズミの楽園で、昔、笛吹き男についていったネズミたちも幸せに暮らした場所だ(ハメルンのネズミたちが川で溺れ死んだというのは、人間の作り話なのだ)。
 ネズミ夫婦と4匹の子どもたち、そして、同じマンションをすみかとしていた独身のオスネズミ、ロジャーの計7匹が、チュートピアをめざす旅に出ることになった。まずは、チュートピアの情報を持っているネズミに会いに、鉄道駅へ。門外不出の地図を見せてもらい、チュートピアへの道のりを頭にたたきこむ。これまでにもチュートピアをめざしたネズミはいたが、戻った者は一匹もいないので、情報は乏しく、地図も不完全だという。厳しい旅になりそうだが、一家は希望を胸に出発する。
 途中までは列車を利用。荷物専用車両に忍び込む。娘のアルファとはぐれたり、父さんネズミが人間にしっぽを踏まれて負傷したりと、波乱含みのスタートだったけれど、何とか無事に終点で下車。そこからは徒歩で進む。人間、犬、タカなどの天敵には常に警戒が必要な上に、巨大ウナギのいる湖、底なし沼、壊れかけた吊り橋など、行く手にはさまざまな困難が待ち受けていた。絶体絶命のピンチに何度も陥るが、ひとつひとつ乗り切っていく。見下していたハツカネズミに助けられたり、ベジタリアンのネコに親切にされたりという意外な展開もあった。子どもたちもそれぞれ得意分野で活躍したり、助け合ったりして、強くなっていく。
 同行者のロジャーは、口ばかり達者で役に立たない厄介者。ネズミ一家は、金星を「わが家の星」と呼んで心の支えにしているのだが、ロジャーは、「星じゃなくて惑星だ」といちいち訂正して、みんなの気持ちをぶちこわす。そんなロジャーも、旅の途中、なりゆきとはいえ、溺れかけた父さんネズミを助けてくれた。また、四六時中一緒にいるうちに、一家全員、ロジャーというネズミになじんでいった。さらに、旅の後半で、父さんネズミとロジャーは生き別れの兄弟だったことが判明する。
 一行は、地図上の最終地点である険しい山を越え、小さな村の農家にたどり着いた。〈*以下略〉

【感想・評価】※結末にふれています
 天敵のいない平和な暮らしを求めて旅に出たネズミ一家の冒険物語。「ハメルンの笛吹き」を下敷きにしていることが、まずおもしろい。全体を通して、クスっと笑ってしまうようなユーモアが流れている。架空の国とはいえ、ごく普通の暮らしが営まれる現代の土地が舞台であり、次々と遭遇する出来事は、実際にネズミが旅に出たら起こりそうなことばかり。身近なことをモチーフにして、ディテールに説得力を持たせ、ところどころにスパイスをきかせて読みごたえのある物語に仕上げており、さすがジョイ・カウリーだ。
 ハラハラドキドキ、そしてわくわくする冒険を楽しみ、ネズミたちの成長や、家族の絆が深まっていく様子にしみじみとさせられる。ネズミの視点で書かれたネズミの物語であり、ネズミから見た人間の暮らしをユーモアたっぷりに描いているところもおもしろいのだが、家族のあり方は、ネズミも人間も共通だ。ナイスなファミリーであるネズミ一家に、厄介者のロジャーを絡ませ、ロジャーとの絆も育てていくところなど、実にうまい。血がつながっていることがわかったあと、子ネズミたちが、ロジャー叔父さんのほら話に大喜びする場面も印象的だ。
 チュートピアが存在しないとわかった日、ロジャーが金星を見て「わが家の星だ!」と叫ぶ場面は、ロジャーが家族に仲間入りしたことを象徴している。一家にとって、この旅が価値あるものだったことの証拠でもあり、物語はここでいったん完結したともいえる。ただし、ここで終わってしまったら、ちょっとあっさりしすぎで、物足りないだろう。また、チュートピアが想像の産物だったという事実は、読者にとってもがっかりであり、そこまでの道のりこそが価値あるものだったといわれても、納得できないかもしれない。しかし、続く最終章がすばらしいのだ! 子どもたちが両親のために冬用のすみかを用意し、「チュートピア」の表札をつけたという結末に、ほろりとさせられた。カウリーらしいあっさりとした書き方だが、本を閉じたあとにじわじわとこみあげてくる。ネズミ一家が、これからも明るくたくましく生きていくだろうと思わせる、すてきなハッピーエンドだ。
『ヘビとトカゲ きょうからともだち』でもコンビを組んだガヴィン・ビショップの挿し絵は、シンプルで、どこかとぼけていて愛嬌があり、この物語の味わいにぴったりだ。本書は、現代ニュージーランド児童文学界の最強コンビによる秀作といえるだろう。

【作者紹介】
ジョイ・カウリー
 ニュージーランド児童文学を代表する作家。1936年生まれ。ニュージーランドの児童文学賞で受賞歴多数。2016年国際アンデルセン賞候補者。アストリッド・リンドグレーン記念文学賞には、2006年以来毎年ノミネートされている。邦訳された読み物に、『サンゴしょうのひみつ』『帰ろう、シャドラック!』『ハンター』『ヘビとトカゲ きょうからともだち』『三千と一羽がうたう卵の歌』がある。北島南部のフェザーストン在住。

ガヴィン・ビショップ
 イラストレーター、作家。1946年、ニュージーランド南島のインバーカーギルで生まれる。大学卒業後、美術教師として高校に勤務しながら、イラストレーター、絵本作家として活躍。勤続30年で退職し、フリーになる。ニュージーランドの児童文学賞で受賞歴多数。1984年に野間国際絵本原画コンクールで大賞を受賞し、来日してスピーチをおこなった。邦訳作品に、絵本『こうさぎのうみ』『きつねおくさまのごけっこん』、挿し絵を手がけた『ヘビとトカゲ きょうからともだち』(ジョイ・カウリー作)がある。クライストチャーチ郊外在住。

*カウリー、ビショップ両氏とも、2016年8月にニュージーランドで開催される国際児童図書評議会(IBBY)の世界大会で講演をする予定。