ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★The Fierce Little Woman and the Wicked Pirate (仮題『きしょうのあらいちっちゃな女と あくたれもののかいぞく』)

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書名:The Fierce Little Woman and the Wicked Pirate
  『きしょうのあらいちっちゃな女と あくたれもののかいぞく』(仮題)
   *2011年ラッセル・クラーク賞候補作品
作者:ジョイ・カウリー (Joy Cowley)文
   サラ・デイヴィス (Sarah Davis)絵
出版元:Gecko Press
発行年:2010年(初版は1984年 Shortland Educational 刊。新たに絵をつけ、2010年にハードカバーで出版)
ページ数:40ページ(本文32ページ)
サイズ:24 x 23 cm
ISBN:978-1877467417 (ハードカバー)
対象年齢:3歳ぐらいから
*試訳(全訳)あります


【あらすじ】※結末にふれています
 海につきだした長い桟橋のはしっこに、小さな家がありました。床から海におりられるはねあげ戸がすてきな、住み心地のいい家です。ここには、「きしょうのあらいちっちゃな女」が住んでいます。女は、船乗りたちのために靴下を編んだり、カモメたちのためにバグパイプを奏でてやったりしながら、ひとりで暮らしていました。
 ある嵐の日、「あくたれもののかいぞく」がやってきて、「中にいれろ」といいました。きしょうのあらいちっちゃな女は、悪態をついて追いかえします。でも、かいぞくは、何度もやってきます。はじめはいばっていたくせに、夜になると、こわくなってきたようです。かいぞくは、半ベソでたのみこみました。「暗闇がこわいんだ。おねがいだから、いれてくれよぉ」
 きしょうのあらいちっちゃな女は、かいぞくを家の中にいれてやりました。意外に弱虫なかいぞくは、きしょうのあらいちっちゃな女が、見た目によらず編みものが上手で、すてきな家にすんでいることに感動。そしてすぐにプロポーズ。きしょうのあらいちっちゃな女は、「ばかなこというな」といいながら、生まれてはじめて、にこっと笑ったのです。
 かくして2人は結婚し、いまでは3人の子どもとしあわせに暮らしています。夏には、床のはねあげ戸から海に出ておよぎます。冬には、はねあげ戸の下に釣り糸をたらします。きしょうのあらいちっちゃな女は、ときどき、バグパイプで子守歌を奏でます。かいぞくと子どもたちが、暗闇をこわがらないように。

【感想・評価】
 ヨーロッパのむかし話を思わせるストーリー。でも、この絵本の主人公は、むかし話の挿し絵のイメージと全然ちがう。魔女とか化け物みたいな女ではなく、現代のキャリアウーマンふう美人だ。fierce(獰猛な、荒々しい)なところは、目つきや表情で表現されている。一見ミスマッチと思われそうな絵だが、美しい風景や居心地よさそうな家の中の様子とともに物語と溶け合っていて、とても魅力的だ。絵のタッチも色使いも、繊細かつ温かい。
 ストーリーは、シンプルでユーモアがきいている。きしょうのあらい、とってもこわそうな女が、編み物が得意だという意外性には笑えるし、それが海賊のハートを射止めるという展開もおもしろい。ちょっとワイルドな人物や雰囲気を使って温かい物語を作るのが得意なジョイ・カウリーらしさが出ていると思う。(ちなみに、カウリーさんも編み物の達人だ)
 そして、ストーリー展開以上に魅力的なのが、設定だ。長い桟橋のはしっこにある小さな家。床のはねあげ戸がそのまま海につながっているなんて、夢があって楽しくて、あこがれてしまう。私が子どものころ大好きだった、ハイジの干し草のベッドや、インガルス一家の幌馬車、ロッタちゃんが引っ越した小さな部屋などに通じるものを感じた。身近ではないけれどあり得なくはない設定が、読者の心をつかむと思う。
 読み終わったあと、絵だけをゆっくりながめるお楽しみもたっぷり。特に、家の中を描いたページには、発見がたくさんある。子どもが生まれてからは、まさに幸せを絵に描いたような風景。3人の子どもたちはとても愛らしくて、何度もながめてみたくなり、ながめていると自然と笑顔になってしまう。見返しの絵もすてきだ。表紙の見返しでは、ぽつんと建った小さな家。裏表紙の見返しでは、桟橋からはみ出るように増築された同じ家が描いてあり、見比べると楽しい。
 繰り返し読んで、見て、あれこれ想像しながら余韻にひたれる絵本。テレビやゲームでは味わえない世界が描かれている。

【作者紹介】
ジョイ・カウリー(文)
 ニュージーランドを代表する児童文学作家。1936年に生まれ、病弱な両親のもと、生活保護を受けて育った。アルバイトをしながら高校に通い、薬剤師修行をしながら薬局で働いたのち、20歳で農家に嫁ぐ。農作業、家事、子育てと多忙な中、夜中にペンをとって作家をめざし、小説 "Nest in a Fallen Tree" で1967年にデビュー。大人向け作品を数冊出したのちに児童書に転じ、数々の読み物、絵本、学習教材を執筆。16ページ程度の学習教材を含めると、著作数は千編を超え、児童図書賞受賞歴も多数。児童文学の作家として、識字教育の指導者として、国際的に高く評価されている。2016年国際アンデルセン賞作家賞候補者。

サラ・デイヴィス(絵)
 オーストラリア、ニュージーランドで活躍中のイラストレーター。1971年英国生まれ。米国、スウェーデン、ニュージーランドで子ども時代を過ごす。ニュージーランドの高校で教員として勤務した後、2004年にオーストラリアに移住。イラストレーターとしてさまざまな分野で絵やデザインの仕事を経験。現在は児童書のイラストを中心に活躍している。絵本 "Marmaduke Duck" シリーズ(Juliette MacIver文/Scholastic NZ)、"Fearless" シリーズ(Colin Thompson文/Abc Books)、読み物の挿絵に、"Violet Mackerel"シリーズ(Anna Branford文/Walker Books Australia)、"The Anti-Princess Club" シリーズ(Samantha Turnbull文/Allen and Unwin)など多数。