ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Maraea and the Albatrosses(仮題『マラエアとアホウドリ』)

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【基本情報】
書名:Maraea and the Albatrosses(仮題『マラエアとアホウドリ』)
作者:パトリシア・グレイス (Patricia Grace)文
   ブライアン・ガンソン (Brian Gunson)絵
出版元 :Penguin Books (NZ) Ltd
発行年月:2008年6月
ページ数:32ページ(本文28ページ)
サイズ :21.5 × 28 cm(ハードカバー)
ISBN  :978-0143502661
対象年齢:5歳ぐらいから

*本書は英語で書かれているが、マオリ語版も同時に出版され(タイトル:"Ko Maraea Me Nga Toroa")、2009年にマオリ語の児童文学賞 "TE KURA POUNAMU"(ニュージーランド図書館協会主催)の候補作に選ばれた。
 *試訳(全訳)あります  

【ロイヤルアルバトロスについて】
 この物語に出てくるアホウドリは、世界最大のアホウドリといわれるロイヤルアルバトロス(和名はシロアホウドリ)である。成鳥が両翼を拡げると、3メートル以上になる。ニュージーランドにいくつかのコロニーがあり、中でも南島のオタゴ半島突端にあるコロニーは、エコツアーなどで有名。
 ロイヤルアルバトロスは、一生のほとんどを海で暮らす。コロニーから巣立った若鳥は、数年間海で過ごしたあと、初めての繁殖のために陸に上がる。繁殖をするつがいは、春に群れを作ってコロニーに飛来し、巣を作り、卵を産み、子育てをする。1年弱の間コロニーで過ごしたあと、早春に、成長したヒナをつれて海へ戻っていく。再びコロニーにやってくるのは、早くて2年後となる。
 コロニーは、鳥たちが旅立ったあとしばらくの間寂しくなるが、その春のうちには、次に繁殖をする群れがやってくるので、1年のうち10か月か11か月の間は、ロイヤルアルバトロスが暮らしていることになる。


【あらすじ】※結末にふれています
 切り立った岬に、マオリの集落があった。ここは、アホウドリのコロニーでもある。春になると、大人も子どもも岬のてっぺんに集まって、アホウドリの群れを迎える。子どもたちはみんなアホウドリが大好きで、いつも見守っていた。巣立ってゆく群れを見送ると、また次の群れがくるのを待った。マラエアも、そんな子どもの1人だった。
 しかし、時の流れとともに、人の数は減っていく。古い世代の人々が亡くなり、若い世代は、都会や外国へ、次々と移っていった。マラエアも誘われ、心が動いたが、アホウドリのもとを離れまいと、岬にとどまった。とうとう、マラエア以外はだれもいなくなった。
 マラエアは、1人になっても、大好きなアホウドリを見守り続けた。巣立ってゆく群れを見送ると、また次の群れを迎えて、アホウドリとともに暮らした。いつしかすっかり年をとったマラエアは、ある春の日、飛び立っていくアホウドリの群れを見送ったあと、崖っぷちの岩にもたれたまま動けなくなった。
 だれもいない岬に、その年のアホウドリの群れが到着。ヒナが生まれ、夏、秋、冬が過ぎる。再び春がめぐってきて、アホウドリたちは旅立つ。最後の1羽が岬を離れたあと、ふしぎなことが起こった。崖っぷちの岩が、アホウドリに姿を変えたのだ。岩から誕生した美しいアホウドリは、大海原を渡る旅へと、翼を広げて飛び立っていった。


【感想・評価】
 どちらかというと悲しい話だ。主人公のマラエアは、ひとりで年を重ね、ひとりで死んでいく。最後は、マラエアがもたれていた岩がアホウドリに変わり、大海原へと飛び立っていくという、神話や伝説のような結末だ。オープンエンディングだが、マラエアは自由になり、胸をときめかせて旅に出たというハッピーエンドと私は考える。子どもの読者も、マラエアの幸せを願うのではないだろうか。そんな読後感を与える絵本は、やさしい気持ちをはぐくみ、心を豊かにしてくれることだろう。
 ここで、この作品の背景にある、マオリの暮らしについてふれてみたい。マオリの人々は、伝統的な部族社会に生きていた。この物語で岬に住んでいた人々は、マオリ語でファナウと呼ばれる拡大家族(一緒に暮らす親族の集まり)だ。しかし、20世紀以降、都会に移り住む者がふえ、親族のつながりもうすれていった。この物語はフィクションだが、そんな時代を映し出している。そして、自然に根ざした暮らしを続けることを選んだ女性の姿を描いている。大人の読者にもうったえる、深みのある作品だ。
 ブライアン・ガンソンによる写実的な絵には、美しさとかわいらしさが同居する。抑えた色使いながら、雄大な風景がみごとに描かれている。なにより、アホウドリを見る子どもたちの目がきらきらと輝いているのが印象的だ。赤いリボンをつけたまま大人になり、年をとっていくマラエアの絵にも味わいがある。
 日本にもアホウドリのコロニーがあり、保護活動が行われていることは、多くの人に知られているだろう。それと関連づけて、本書にも興味を持ってもらえるのではないだろうか。アホウドリはなかなか見ることができないが、大海原の上を滑空する姿はとても優美で、魅力的な鳥だ。
 時代設定は20世紀後半だと思われるが、むかし話のような雰囲気を持つ作品。一流のマオリ文学者であるパトリシア・グレイスがつむぎだしたこの物語の静かな魅力を、日本の読者に伝えられたらうれしい。

 

【作者紹介】

パトリシア・グレイス(文) 1937年ウェリントン生まれ。1975年に短編集 "Waiariki"(ワイアリキ)を出版し、マオリの女性による初めての単行本として注目された。以来、マオリのアイデンティティーをテーマにした小説を発表し続けている実力派のマオリ文学者である。
 代表作は "Potiki"、"Cousins"、"TU" など。最新作 "Chappy" は、マオリの女性と結婚した日本人男性がモチーフとなっている。
 邦訳は、短編小説 "Between Earth and Sky"(邦題『空と大地の間で』)が、『現代ニュージーランド短編小説集』(百々佑利子監訳/評論社刊)に収録されている。
 子ども向けでは、代表作に、マオリのおばあさんが主人公の絵本 "Kuia and the Spider"(未訳)がある。

ブライアン・ガンソン(絵)

 パトリシア・グレイスの兄弟。おもにマオリ語の学習教材の挿絵画家として活躍している。絵本作品に、"Where's Koro's Hat?"(Kerehi Waiariki Grace文)がある。