ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★The Were-Nana (NOT a Bedtime Story) (仮題『おばあちゃんはオオカミばばあ(ひるまむきのおはなし)』)

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【基本情報】
書名:The Were-Nana (NOT a Bedtime Story)
  『おばあちゃんはオオカミばばあ(ひるまむきのおはなし)』(仮題)
*2009年ニュージーランド・ポスト児童図書賞 子どもたちが選んだ本賞受賞作品
*2010年Sakura Medal(日本のインターナショナルスクールの児童書賞)絵本部門候補作品

作者:メリンダ・シマニク (Melinda Szymanik)文
   サラ・ネリシエ・アンダーソン (Sarah Nelisiwe Anderson)絵
出版元:Scholastic New Zealand
発行年月: 2008年9月
ページ数:32ページ(本文30ページ)
サイズ:21.5×26.5 cm(ペーパーバック)
ISBN:978-1869438692
対象年齢:4歳ぐらいから
*試訳(全訳)あります 

【あらすじ】※結末にふれています
 外国に住んでいるおばあちゃんが、初めて遊びにくることになった。幼いステラローザはちっともうれしくない。写真で見るおばあちゃんは、黒いコートに身を包み、とてもこわそう。それに、お兄ちゃんのサイモンによれば、おばあちゃんは、魔女と友だちで、顔にはひげがはえていて、手にはかぎ爪があるんだって。その正体は、オオカミ男ならぬオオカミばばあ!「キスされたら最後、おまえもオオカミばばあになっちゃうんだぞ」。空港へ向かう車の中でサイモンにおどかされつづけ、ステラローザはふるえあがる。パパとママに助けを求めようとしたけれど、相手にしてもらえないまま、空港に到着。
 ロビーで待っていると、おばあちゃん登場。逆光を受けて歩いてくる。黒い大きな影が目の前にせまる。サイモンがおどし文句をささやく。ステラローザは、こわさのあまり、泣きさけぶ。するとおばあちゃんは、オオカミの毛皮のような黒いコートを脱ぎはじめた。頭をおおっていたスカーフもはずすと……。オオカミばばあなんかじゃない! ふつうの人だ。笑顔をうかべたおばあちゃんにだっこされ、ステラローザの涙はかわく。
 にやにやしているサイモンに、おばあちゃんはささやいた。「あたしは確かに魔女と友だちだ。魔女たちは、呪文を知っているんだよ。いじわるな兄貴をこらしめるための、おそろしい呪文をね」

【感想・評価】
 メリンダ・シマニクが創作したちょっとこわいストーリーに、ぞくぞくするような絵がついて、独特の世界を作り出したこの絵本は、子どもたちの投票で決められる「子どもたちが選んだ本賞」を受賞した。
 サラ・アンダーソンの絵は、若い女性画家らしいかわいらしさを持ちながらも、光と影を使い分け、リアルなタッチで顔を描くことで、なんともいえないぶきみな雰囲気をかもし出している。小さな子どもにとってはちょっとこわいかもしれないが、小学生以上の読者には、こわさゆえのユーモアを感じてもらえると思う。
 移民が多いニュージーランドでは、遠い地球の裏側に親戚がいる家庭も少なくない。それを思うと、夏のニュージーランドにやってきたおばあちゃんがコートを着ていることや、子どもたちがおばあちゃんと初めて会うという設定にも、すんなりうなずける。また、東欧にルーツを持つ作者シマニクは、ババヤガーの民話など、ちょっとこわい物語に親しみながら育ったそうで、そんなエッセンスが感じられることも興味深い。
 サイモンの作り話の中でもすごいのは、「魔よけの薬」のくだり。自分は魔よけの薬を飲んできたから、おばあちゃんにキスされても平気だという。悪知恵ばかり働くやんちゃな男の子らしい、みごとな作り話だ。薬を飲んでいないステラローザは、この話を真に受けて、すっかりおびえてしまう。
 結局ステラローザは、おばあちゃん本人に救われ、ほっと安心。でも、それだけでは終わらないところがこの作品の魅力だろう。明るくなった背景が再び暗くなり、妹いじめを楽しんでいたサイモンが、おばあちゃんにおどかされてふるえあがるのだ。最後の場面の魔女の影の絵も、かなりぶきみだ。とはいえ、さんざん意地悪をしていたサイモンがこわい思いをする結末なので、幼い読者がショックを受けることはないだろう。ちょっとしたホラーとして楽しめる絵本。家族や友だちと一緒に読めば、恐怖が笑いに変わって、盛り上がるのではないだろうか。夏によく開催される「こわいおはなし会」で、幼児、低学年向けにおすすめしたい。

【作者紹介】

メリンダ・シマニク(文)

 1963年、オークランド生まれ。ポーランドからの移民の子孫。作家養成講座で修行を積み、2006年に絵本 "Clever Moo" でデビュー。それ以来、絵本、読み物、短編を数作ずつ発表している。第2次世界大戦中のポーランド人の歴史に基づくフィクション "A Winter's Day in 1939" (Scholastic NZ)は、2014年ニュージーランド・ポスト児童図書賞児童読み物部門とエスター・グレン賞の候補作品に選ばれた。オークランドの緑豊かな住宅地で、夫と3人の子どもと暮らしながら、執筆活動を精力的に行っている。

サラ・ネリシエ・アンダーソン(絵)

 1983年に英国に生まれ、ニュージーランド北島のコロマンデル地方で育つ。マッセイ大学でデザインを学んだ後、イラストレーターとして、児童書、学校教材、雑誌、広告等、幅広い分野で活躍。本作は初めての絵本作品。2作目の"Tiny Miss Dott and Her Dotty Umbrella"(Michelle Osment 文/Scholastic NZ)は、2010年ラッセル・クラーク賞候補作品に選ばれた。