ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★Itiiti's Gift(仮題『イチイチのさがしもの』)

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【基本情報】
書名:Itiiti's Gift(仮題『イチイチのさがしもの』)
   *2007年ストーリーラインズ優良図書
作者:メラニー・ドルーウェリー (Melanie Drewery)文
   フィフィ・コルストン (Fifi Colston)絵

出版社:Reed Publishing(現 Raupo Publishing, Penguin NZ)
発行年月:2006年11月
ページ数:32ページ(本文26ページ)
サイズ:21.5×23 cm(ペーパーバック)
ISBN:978-01869484057
対象年齢:4歳ぐらいから
*試訳(全訳)あります

【あらすじ】※結末にふれています
 イチイチは、3世代8人が同居する家族の中でいちばん年下です。家族のみんなは、体も大きくて、それぞれ得意なことがあるのに、自分だけは、ちっちゃくて、何のとりえもないと思いこんでいました。でも、「イチイチにだって、なにか才能があるんだよ」とお母さんにいわれ、自分の「才能」をさがしにいきます。ところが、何をやってもうまくいかず、すっかりしょげてしまい、才能をさがすのをあきらめました。すると最後に、「才能」の方がイチイチを見つけてくれました。

 
【感想・評価】
 itiは、マオリ語で「小さい」という意味です。この絵本の主人公の名前、Itiiti(イチイチ)は、「おちびちゃん」というようなニックネームだと思います。
 絵を見れば、白人の家族でないことは一目瞭然でしょう。イチイチたち家族はマオリ族であり、ストーリーには、さりげなくもたっぷりと、マオリらしさが織り込まれています。マオリといえば、戦いの踊り「ハカ」が有名ですが、伝統的に、歌を愛する民でもあります。イチイチの美しい歌声は、マオリ族としても誇れる才能なのです。
 とはいえ、ストーリーのテーマは、人種や国籍に関係なく、普遍的で心温まるものです。マオリらしさをあえて強調しなくても、日本の読者にアピールできる作品ではないでしょうか。子どもにも大人にも、パワーを与えてくれると思います。
 絵が写実的すぎてかわいらしさに欠けることは否定できませんが、甘ったるくない温かさに私は魅力を感じます。多くのページに、シダの新芽の渦巻きがデザインされていますが、マオリ語で コル(koru)と呼ばれるこの渦巻きは、「始まり」「調和」「過去と未来のつながり」など、さまざまなことを象徴しています。また、マオリには、「時を超えて吹く風に乗って、先祖たちが守ってくれている」という概念もあります。風のように流れるコルのデザインが、作品の温かさを引き立てているように思います。

 

【作者紹介】

メラニー・ドルーウェリー(文)

 1970年生まれ。子ども図書館の司書、プリスクールの職員、ジャーナリストなどを経て、1998年からプロの作家となる。ニュージーランド先住民マオリ族を題材にした絵本作品が多い。ストーリーの中にさりげなくマオリらしさを織り込みながら、マオリ語やマオリの文化を子どもたちに紹介している。主な作品に、絵本の "Nanny Mihi"(ミヒおばあちゃん)シリーズ、キーウィの保護活動を紹介した絵本 "Tahi One Lucky Kiwi"(2008年ニュージーランド・ポスト児童図書賞絵本部門受賞作品)、低学年向け読み物の "The Mad Tadpole Adventure" などがある。

 

フィフィ・コルストン(絵)

 1960年、英国生まれ。1968年にニュージーランドに移住し、現在はウェリントン在住。挿絵画家、作家、デザイナーなど、さまざまな顔を持つ。児童書の代表作に、挿絵を手掛けた絵本 "The Red Poppy"(デイヴィッド・ヒル文)、読み物 "Glory"(2010年エスター・グレン賞候補作品)、「着る芸術作品」を紹介したノンフィクション "Wearable Wonders"(2014年ニュージーランド・ポスト児童図書賞ノンフィクション部門候補作品)などがある。2008年にはニュージーランド・ポスト児童図書賞の審査員を務めた。