ニュージーランドの本

児童文学を中心に、ニュージーランドの本(ときどきオーストラリアも)をご紹介します。

★The Little Penguin Who Wouldn't Eat His Dinner (仮題『さかなをたべないペンギンぼうや』)

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【基本情報】
書名:The Little Penguin Who Wouldn't Eat His Dinner
  (『さかなをたべないペンギンぼうや』仮題)
作者:ジェーン・バクストン (Jane Buxton)文
   フィリップ・ウェッブ (Philip Webb)絵

出版社 :Reed Publishing (現Penguin NZ)
発行年月:2006年5月
ページ数:32ページ(本文24ページ)
サイズ :21.5 × 23 cm(ペーパーバック)
ISBN  :978-01869485962
対象年齢:3歳ぐらいから

 *試訳(全訳)あります。

【キガシラペンギン(yellow-eyed penguin)について】
 この絵本に登場するペンギンは、ニュージーランド固有の絶滅危惧種で、和名はキガシラペンギンまたはキンメペンギン。南島南東部や、さらに南の孤島に生息地がある。
 もともと森にすむペンギンだったが、開拓時代に原生林の多くが焼き払われたせいで個体数が激減。わずかに残った森や、牧場と化した土地にすみ続け、20世紀後半から保護されるようになった。オタゴ半島の生息地では、観光客向けのツアーも行われている。
 成鳥は、昼間は海で魚を捕り、夕方に陸に上がって巣に帰る生活を通年続ける。メスが2個の卵を産み、夫婦で子育てをする。夫婦は生涯連れ添う。

【あらすじ】※結末にふれています
 主人公のパルは、キガシラペンギンのヒナ(わんぱくな男の子)。パパとママと双子のペペ(女の子)と4人家族です。
 パルは、毎日魚ばかり食べているのが突然いやになり、もう魚は食べないと両親に宣言。ほかの鳥のまねをして、虫や木の実を食べてみますが、あまりのまずさに閉口します。それでも意地をはって魚を拒否していたら、からだがすっかり弱ってしまいました。
 そんなある日の夕方、パパが行方不明に! パルは、体力をつけるためにハンストをやめて魚を食べ、パパをさがしに出かけます。浜辺で見つけたパパは、魚網に足がからまってしまった上に、犬にほえられていました。パルは犬に立ちむかい、みごとにやっつけました。パパもママも、勇気ある息子をほこりに思います。そしてパルは、自分たちペンギンは、やっぱり魚を食べて生きるのだということを学びます。

【感想・評価】
 氷の上ではなく草地にすんでいる野生のペンギンというのが、まずユニーク。食べ物という身近な題材を使って、シンプルにまとめられた親しみやすいお話です。前半は、主人公パルのわんぱくぶりが、ユーモアたっぷりに語られています。後半では、持ち前の正義感で一直線に進んだパルが、大好きなパパを捨て身で救助。その勇気には感動さえ覚えます。パル自身が大切なことを学ぶという結末も文句なしで、読後感もさわやかです。
 絵は、かわいらしく親しみやすく、それでいて、ペンギンや鳥や犬のリアルな姿を描いているところが魅力です。
 また、この話は、キガシラペンギンの生態に忠実であるという点でも魅力的です。家族ごとの巣で双子のヒナを育てる夫婦が、毎日そろって海へ魚をとりにいき、夕方戻ってくることや、犬や人間と共存していることなど、キガシラペンギンの現実そのものです。脇役として出てくる鳥たちもニュージーランド固有種で、食性も現実に忠実です。
 ペンギンは、世界中で、子どもにも大人にも人気の生き物だといえるでしょう。キガシラペンギンは、写真で見ると、ちょっと目つきが悪くて生意気そうですが、海から上がって浜辺をよたよた歩いている姿は、それはそれは愛らしいのです。オタゴ半島で、羊の牧場にキガシラペンギンの姿がぽつんぽつんと見えるのも、なんともいえない味わいのある風景です(人間が森を奪ってしまったせいだと思うと、複雑な気持ちになりますが……)。
 この絵本を通して、日本の子どもたちにキガシラペンギンを知ってもらえたら、何よりだと思います。

 

【作者紹介】

ジェーン・バクストン(文)

 1947年、ニュージーランド北島のオタキに生まれる。教職の傍らに執筆活動に取り組み、学習教材を中心に、子ども向けの物語、脚本、詩など、200作品以上を発表。2002年より作家専業になる。ニュージーランド固有のチドリを主人公にした絵本 "Ria the Reckless Wrybill"(ジェニー・クーパー絵)は、2011年 Storylines(IBBYのニュージーランド支部)優良図書に選ばれた。南島のカンタベリー地方で、愛犬と暮らす。

 

フィリップ・ウェッブ(絵)

 ウェリントン在住のイラストレーター。1952年英国生まれ。子ども時代を香港とケニヤで過ごす。ニュージーランドに移住し、子ども向け番組のスタッフとしてテレビ局に勤務した後、イラストレーターとして活躍。学習教材や数々の絵本に挿絵を描いている。
 デビュー作は1985年発表の絵本 "Salmagundi"(ジョイ・カウリー文)。2008年発表の "Piggity-Wiggity Jiggity Jig"(ダイアナ・ニールド文)は、2009年ニュージーランド・ポスト児童図書賞絵本部門のオナー作に、続編 "Piggity-Wiggity Jiggity Jig Goes to Dad's Cafe" は2010年の同賞候補作に選ばれた。